ワイルドで行こう
食卓に着くと、娘が『わーい、おいしそー』と大喜び。
だが英児はなんと言ってよいのか。
「小鳥ちゃんの好きなハンバーグね、それから、パパはビーフシチュー。セイちゃんは……」
夫に子供が好きなものばかり作っている豪勢な食卓――。こんなに頑張ってくれて、賑やかにしてくれて。
「いただきまーす」
早速、娘がフォーク片手に食べようとしているのだが。
「まて。小鳥」
パパはその手を止めた。『どうして』という顔の娘。そんな彼女に英児は向かう。
「今日はママの誕生日だ。ハッピーバースデーだよ」
「え、そうなのっ」
そんな物事は判り始めてきた娘が驚いてママを見た。だけれどママはにっこり。
「ケーキも買ってきたからね。ちゃんと全部食べた人からケーキね」
「やったー! ろうそく、ふうってするの、ことりもてつだう」
「うん。ママと一緒にしようね」
それを聞いた娘がこの上なく満面の笑み。しかも慌てるようにハンバーグを食べ始める。
「おまえ、ケーキは逃げねえよ」
可笑しくて、英児もつい笑ってしまうのだが。
ママ、お誕生日おめでとう――なんて。家族全員でやってあげたいが。融通の利かないちびっ子ふたりいると、そんなタイミングなんてもう。
結局、言いそびれてしまい、琴子も小さな息子に食べさせるのに夢中になっている。
「ママの誕生日なのになあ。こんな俺達が好きなもんばっかり作って大変だろ。外に食べに行ってもいいと言ったのに」
だけれど妻は、それを提案した時と同様の返答をする。
「外の方が落ち着かないわよ。この子達が大人しく食べるか気にして、ちゃんと食べるか気にして、おでかけの準備もセイのおむつとかミルクのお湯とかいろいろ気になるし。食べた気もしないのよね。おうちでゆっくりで充分です」
だからって。こんなはりきってママが作らなくても……。自分の誕生日だろ。楽しろよー。と思ってしまう。
「パパ、シチューどう?」
なのに妻が一番気にしているのはそれで。
しかも、この手作りが美味すぎるから困る。
「おいしいです。うん、ママのメシが一番です」
それだけで琴子はさらににっこり。嬉しそう。
だけれど英児もため息をつきつつも、『こうなると思った』と予測済み。そして、ちゃんと準備済み。