ワイルドで行こう
「いろいろ調べて探したんだよ。街中。俺だってこれぐらい出来るぞ」
ネットでどの銘柄を買うか。ネットで買うか、いや、荷物が届いたら彼女にばれてしまうから、この街で買えるものを。どこで買う? 道具も揃えておくか。と、外回りの時に少しずつ買い集めておいたもの。
「えー、まさか今日、シャンパンが飲めるなんて……」
また煙草をくわえながら、英児はもうひとつのグラスにもシャンパンを注ぐ。そして今度、それは英児が手にもつ。
「……それだけ?」
「ああ、俺はこれでいいんだ」
琴子がちょっぴり申し訳ない顔。というのも、英児が持つグラスには、ほんの少しテイストするぐらいしか注がなかったから。
「パパの頭の中は『いつだって車で飛び出せる』なのね」
「俺だって飲む時は飲むけどな。まだチビが夜泣きするだろ。これはお前へのプレゼントだから遠慮するなよ。されたら用意した俺が泣く」
そういうと、やっと琴子もホッとした顔になってくれる。
「いまから大人だけの時間だ」
――琴子、誕生日おめでとう。
英児の言葉に、琴子の笑みがぱっと咲く。
「ありがとう、英児さん。嬉しい」
グラスを静かにカチリと合わせる。パパ、ママではないふたりだけの時間。その時彼女は『英児さん』と呼んでくれる。
だけれど英児は『エイジ』と呼んでくれる時間の方が……。