ワイルドで行こう
「どうしてほしい? お前の好きにするよ、俺」
彼女の乳房にもキスをして、英児は今宵は大人しく彼女本意にしてやろうとその答を待つ。
「手、離さないで。ずっと繋いでいて」
彼女らしい要望だなあと、つい微笑んでしまう。
「わかった」
胸の下の彼女の黒髪を撫で、始まりのキスをして。そうして英児は覆い被さりながら、琴子の両手を握りしめる。
彼女の細くて華奢な指と、英児の長い男の指が一本一本きつく握り合う。英児の肌に琴子の白くてとろけるような乳房がつぶれるようにひっつくと、熱くて灼けそうな思いに駆られる。その熱情に流され、英児は琴子の皮膚を隈無く愛し、やがてふたり揃って弾けそうになるまで膨れあがった欲情をぶつけあうように繋がろうと、熱がこもる足と足の間に思いが集中する。
今宵も密やかにひとつに繋がろうとする時、英児は少しだけ琴子から手を離し、いつもどおり――自分の枕の下に手を伸ばしたのだが。
「……離さないで」
その手を琴子に止められ、元通りに硬く握りしめられる。
「でもよ、琴子……」
離さないで。と言われたから、絶対に離さなかったわけでもない。体位を変える時は少しだけ離して直ぐに硬く握り返す。そうしていたから『この行為』も離して良しと思っていたのに。
「だめ、離さないで」
枕の下にあるのは、ふたりの間にほんの少しの隔たりを生む薄いもの。その隠し場所。小鳥が生まれてから、聖児が生まれてから、それは計画という名のもとに夫妻の間できちんと必要として使ってきたものなのに……。
だが英児もそれで、琴子の気持ちを知ってしまう。あからさまに言わないところが、妻らしい。
「わかった」
それは、英児も同じ気持ち……。妻がそれでいいなら、英児だって同じだった。