ワイルドで行こう
雨の龍星轟店先に、確かに古びた軽トラが一台。きゅっと停車。そしてそこから『よっこらしょ』とばかりに老人が降りる姿が。
「滝田の祖父ちゃんだ!」
小鳥が玄関にすっとんでいく。すると、弟の聖児までお姉ちゃんに遅れまいと追いかけていってしまう。
「こら、まて」
末っ子に哺乳瓶をくわえさせたまま、英児も玄関へ急ぐ。というのも、小鳥が十回に三回ぐらいの確率で鍵を開けて飛び出していってしまうことが何度もあったからだった。
やはり玄関からガチャガチャと小鳥が鍵を開けようとする音が忙しく響いている。
『小鳥か』
外からそんな祖父ちゃんの声。
「祖父ちゃん、いま、小鳥が開けるね」
『こら、小鳥!』
まだ玄関ドアも開けていないのに、そんな怒鳴り声が響いたので、流石の小鳥もびくっとしてドアノブから手を離した。
『小鳥。誰が来ても、まだ小鳥が開けたらダメだ。お父ちゃんかお母ちゃんに開けてもらうこと。祖父ちゃんが来ても、父ちゃん母ちゃんがいなかったら開けたらダメだ』
そんな言い聞かせに、小鳥が大人しくなる。
『祖父ちゃんだって嘘つく悪い怖い大人だったら嫌だろう』
「うん、いや。うち赤ちゃんいるから」
『お父ちゃん、そこにいるか』
「うん、いるよ」
そうして小鳥がやっと英児に振り返る。
「パパ、開けてあげて」
「わかった」
ホッとして、英児は息子を抱いたまま玄関を開ける。
そこには口をへの字に曲げている白髪もそこそこにしかなくなってしまった父親がいた。雨に少し濡れた黒いウィンドブレーカーに、綿のズボン。昔から変わらぬスタイルの。
「どうしたんだよ、親父」
「まあ、そこを通ったんで寄ってみたんじゃが」
相変わらずのぶすっとした顔。だがその片手には何かを持っている。
「うちで採れた野菜やけん。また琴子さんに渡してーや」
近くを通っただけのはずなのに、わざわざ摘み取ってきただろう野菜を持っているなんておかしいじゃないかと言い返したいが。
「ありがとう。琴子、親父が作った野菜、いつも喜んでいるよ」
それだけで英児の父は笑顔になるから困ったもの。