ワイルドで行こう

 
 散らかっているリビングにはいった父親がキッチンを見る。
「琴子さん、仕事か」
「ああ、平日だからな」
「それで子供達は保育園は休みなんだな」
「運動会の代休」
 その運動会。この祖父ちゃんも、ちゃんと応援に来てくれた。活発な小鳥の活躍に興奮して。まだ心許ない聖児の頑張りに人一倍の声援を送ってくれたりして。しかも『わしもビデオ撮影する』とか言いだして、やったこともないのにやってみたり。
 琴子が作った弁当を孫達に囲まれて食べている父親を見ていたら、そりゃ。英児だって。以上に、琴子が嬉しそうなのだから、これまた困ったもの。
 私、お父さんがいないからね。やっぱりお祖父ちゃんがあんなに頑張ってくれる姿を見られるのは、お義父さんでもとっても嬉しい。
 そう言われてしまったら、親父と喧嘩なんて出来るはずもない。
「玲児は大丈夫か」
「いま、ミルク飲んでいたんだよ」
「うんうん。だいぶ、大きくなってしっかりしてきたな」
 息子が抱いている孫をみて、また嬉しそうな顔。っていうか、その『だいぶ大きくなった』は運動会があった一昨日も言っていたじゃねーかよ、とか突っ込みたくなるが。そこもいまは『うっかり言わないよう』我慢。
 そんな時、ダイニングテーブルに置いていた携帯電話が鳴る。
 ああ、義姉ちゃんかな。そう思った。
『英ちゃん、お義父さん……』
「来てるよ」
 やっぱりと思いつつ、返答すると義姉のホッとした声。
『今日、保育園。代休なんだって?』
「ああ、うん」
『琴子さん、仕事なんでしょ。この前、運動会の応援から帰ってきたお義父さんが、英児ひとりで大丈夫かなーって心配していたんだけどね。英ちゃんも、三人目ですっかり慣れているから大丈夫よーって私が言ったら、急に怒りだしてねえ』
 義姉の話に、英児は『父親の真意』にすぐに気がついてしまい、ギョッとして孫とフローリングで戯れている父親を見た。
『なんだかんだ言って。英ちゃんが、まだ乳児の玲児ちゃんを含めて三人も面倒を見るのを心配しているのよ。わざと野菜を摘んでいく準備していたから、黙って送り出しちゃったんだけどね……』
「そうだったんだ……」

< 426 / 698 >

この作品をシェア

pagetop