ワイルドで行こう
『英児、水溜まりの穴があるからよ。気をつけろよ』
『とうちゃん、もっとスピードだしてくれよ!』
『よっしゃー』
夏の干上がった水溜まり跡。そこがちょっとした穴になって、父の軽トラが激しくバウンドする場所。それがまた楽しみで――。
そんな思い出に、親父が言う。
「……お前、もしかすっと、あんときから車が好きやったんかもしれんなあ」
え。それって、なに? 英児の脳裏、夜中に制限速度無しの畑道で疾走する軽トラが、水溜まり跡でバウンッと跳ねてすごく舞い上がるあの感触。なんだか急に蘇ってくる。
それが、峠道を疾走していた頃と何故か重なる。
「まさか、」
驚愕する英児に気がついたのか、フロントミラーに映っている父と目が合う。だがその父の顔も。『まさか』という顔!
「ワシのせいじゃないぞ! お前が峠をバカみたいに走り回ったのは、ワシのせいじゃないぞ!」
英児と同じ事を親父も感じ取っていた。
「あったりめえだろ。親父のおかげのもんか!」
『親父のせい』じゃなくて、『親父のおかげ』になってしまっているし!
「俺はテレビで車のレースを見て魅せられたんだよ。親父がへなちょこに運転する軽トラなんかで、車屋になったんじゃねーよ」
はあ、しまった! いつもの悪い口が発動してしまい英児は内心焦ってしまう。当然、父親も。
「なんじゃと。夜中にお前がちっとも眠らなくて、皆が寝ているのをいいことにひとりで悪戯ばっかりしよって、畑の朝は早いのに、軽トラ出して走らせて眠らせてやったんやぞ!」
うう、そうだそうだ。俺がいま、それを小鳥とか聖児とか玲児にしているよ。初めて父親が何故、軽トラを疾走させてくれていたか痛いほど解ってしまう英児。