ワイルドで行こう


『父ちゃん、はえー!』
『だろ。父ちゃんも、誰もいない畑道ぶっとばすの好きじゃけん!』
 母ちゃんに内緒な。

 そんな会話まで思い出してしまい、今度は泣きそうになる。
 俺、完全に親父譲りだったのかと――。
「パパと祖父ちゃん、また喧嘩? ママがいたら『はい、オチャにしましょう』ていうよ」
 ふっと間に入ってきた小鳥の言葉で、英児と父は揃ってはっと我に返る。そして素直じゃないから互いに目線が合わないようにして黙り込む。
 でも、英児の唇の端。なんだかふっと和らいであがってしまっていた。
 あれ、確かに楽しかったな。口悪いばかりで腹立つばかりの親父と、唯一笑いあえた触れあいだった気がする。
 それに小鳥。琴子がいなくても、ちゃんと仲裁してくれる女がここにもいたじゃねえか――と。
 
 バイパス沿いにある大型おもちゃ店につくと、もう小鳥と聖児は『うわーい』とすっとんでいってしまう。
「こらー、まて」
 パパは末っ子の玲児をだっこバンドでだっこ。追いかけられない。だがそこで父が余裕の一言。
「広い店やけど、どこかにはいるはずじゃろ。小鳥もそんな馬鹿じゃないけん。外には出ていかんわ」
 だから落ち着けということらしい。
 そんな父親が、ふっと背丈が伸びた息子を見上げる。
「お前がいちばん子だくさんになったなあ。しかもなあ、悪ガキだったお前が……」
 もう一度息子を眺め、そこで父が『ぷ』と吹き出しそうになった顔をそらした。
「なんだよ」
 もう言いたいこと分かっている……。
 茶髪だの、赤い髪だの、金髪だの。剃り込み入れて、髪を鶏冠にして粋がっていたくせに……。いまは、カミさんが留守の間は完全子守パパ。赤ん坊をだっこして子供に振り回せれている。
 そう言いたいのだろう?


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