ワイルドで行こう
「セイ、レイジ。お帰り。どれ、今日は何が釣れたのかな」
白髪のマスターがこの上ない笑みで、息子二人の元へ跪く。
十歳になった聖児、八歳になった玲児。共に遊び盛りでやんちゃ盛り。もういつだって元気いっぱい。
「じいちゃん、これ食べられるかな」
お兄ちゃんの聖児から、青いバケツの中で泳いでいる小魚を見せる。
「うん。食べられるよ。何をして食べようかな。天ぷらか、フライ。ピザにも乗せても美味しいね」
「フライ!」
「僕もフライ!」
「よし、じいちゃんが料理するから待っていて。タルタルかな、オーロラソースかな、シンプルにソースかな」
「全部!」
「じいちゃんのタルタル大好き!」
男の子ふたりの黒髪を撫でるマスター。生まれた時からこうして可愛がってもらってきた。琴子の父が他界している分、子供達はこちらのマスターを本当のお祖父ちゃんのように思っている。そして子供がいないマスターも同じく、孫のように可愛がってきてくれた。
「あれ。小鳥はどうしたのかな」
いつも弟たちをビシビシまとめているお姉ちゃんがいないので、マスターが心配そうに勝手口から磯辺に沿う小道を覗いた。
その道は、地元漁師の小さな漁船が繋がれている桟橋や、テトラポットが続く道。琴子にとっては決して忘れられない小道――。
英児と恋を結んだ夜の磯辺。入り江の月夜。その道を今は子供達が来るたびに行き来して、あの階段がある渚や防波堤で釣りや磯遊びを楽しむようになった。
その道を、弟たちから遅れて歩いている黒髪ポニーテールの女の子。でも彼女は一人で歩いているわけではなかった。
その傍らに、杖をつている老女。そして後ろを守るように歩いているのは白髪になった矢野さんだった。
娘の小鳥がその老女を支えるように歩いて、喫茶厨房の勝手口に帰ってきた。
「お祖母ちゃん、大丈夫?」
小鳥が支えているのは、琴子の母、鈴子。
「ありがとう、小鳥ちゃん。いいお天気で気持ちよかったよ」
「よかった。私もお祖母ちゃんが一緒で楽しかった」
すっかり祖母の背丈を超した娘はもう十二歳。来年、中学生になる。
思った以上に背丈が伸びたのは、顔つきに同じく、父親譲りだからろうかと琴子は思っている。
幼い時から元気いっぱいの娘だけれど、女らしいこだわりも持っていて、それが真っ直ぐ長く伸ばしている黒髪。いつもポニーテールにしてきらきらしている少女の髪は、母親の琴子でも羨ましくなってしまうほど。
来年はきっと、ママの背丈も超えてしまう。それほど女らしく成長していた。