ワイルドで行こう
そんな娘が、いつかの琴子のように母を支えて歩く姿。母はいつも気遣ってくれる孫に嬉しそうに目を細めている。
「小鳥はしっかりしているね」
マスターもそんな小鳥のやんちゃを知りつつも、放っておけずに世話好きなところも『小鳥は本当に英児君に似たんだね』と言ってくれる。
子供の磯遊びにつきあってくれた矢野さんも到着。
「やー、俺も夢中になってしまったわ。親父、俺もこれだけ釣ったわ」
「矢野君は投げ釣りしたんだ。おっきいのが一尾いるね。刺身に出来そうだな」
「いいねえ。それやってくれよ」
走る会にひとまず参加してくれている矢野さん。だけれど『俺も歳だわ』と言って、目的地によって参加したりしなかったり。今日は愛南町まで行きたいと英児達がはりきっていたので『県境までは勘弁』と辞退。琴子と子供達と留守番をすることに。琴子が料理をしている間、矢野さんが子供達を見てくれることも多い。子供達の『釣り』はそんな『矢野じいが教えてくれた遊び』でもあった。
帰ってきた小鳥が、ちょっと疲れている様子の母にさらに気遣う。
「お母さん。紅茶とか珈琲、お祖母ちゃんに」
「そうね」
「任せて。僕の本職だから」
珈琲と来れば、マスターがはりきる。
「私、じいちゃんのストロベリーティーが飲みたいな」
「いいよ。そう思って、苺の蜂蜜漬けを作っておいたからね」
「やった。私、じいちゃんのお茶、大好き!」
「苺が好きだね、ほんとうに」
小さな時はイチゴ牛乳がお気に入り、そして今はちょっぴりお姉さんになってマスターのストロベリーティーが好きな小鳥。
「お祖母ちゃん、またかぎ針編み教えて」
「うん、いいよ」
小鳥は本当にお祖母ちゃん子と言ってもいい。母から手芸を教わり、料理を教えてもらい。琴子がそうして母に育ててもらったように『女の子らしく』の手ほどきは、お祖母ちゃんなら素直になって教えてもらっている。
マスターの特製紅茶をお供に、白いゆったりしたソファーでお祖母ちゃんと孫娘がかぎ針編みをする午後。
「じいちゃん。魚をさばくなら、俺も見たいな」
「僕も手伝う。母さんみたいに」
「うん、じゃあ男の子は厨房に集合だ」
聖児は男らしくあろうとするところがあり、末っ子の玲児はどうしたことか琴子のまねごとをしたがる。いつも料理の手伝いをしたがり、マスターの厨房が大好きだった。
娘は祖母と、息子達はお祖父ちゃん代わりの、マスターと矢野さんとわいわいと釣った魚を下準備。
そんな週末の賑やかな集いがいまはある。
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