ワイルドで行こう
最初に口にしたのは長男の聖児。
「父ちゃんが先頭だ。R32GT-Rのエンジン音だ」
そして小鳥も耳を澄まし……。
「次はきっと南雲さんのF430」
「じゃあ、三番目は高橋おじさんのランエボぽいね。三好おじちゃんのセリカも一緒だよ」
末っ子の玲児も置いて行かれまいとお姉ちゃんとお兄ちゃんの会話についていく。
琴子もたまに『それってほんとにわかっているの?』と思うほど、子供達はまるで車と一体になっているかのような感覚を見せる時がある。
それを見て矢野さんは満足そうに顎をさすり、マスターと母はこの光景を何度見ても『ほんとにわかっているの?』と琴子同様、不思議そうな顔をする。
「来た――!」
様々なエンジン音が、この漁村海辺のまっすぐな国道に響き渡る。そしてそれが徐々にこの小さなお店に迫ってきている。
子供達の笑顔が輝く。そのエンジンを聞いて育ってきたせい? 三姉弟が揃って店のドアを飛び出していく。
海辺の小さな店の駐車場、ついにそこに真っ黒なスカイラインがざっとドリフトを効かせ現れる。
「やっぱ父ちゃんが先頭だった!」
予想が当たり長男の聖児は飛び跳ねる。その見慣れた黒い車の運転席のドアが開く。龍星轟のジャケットを羽織った男がすっと降りてきた。
「父ちゃん、お帰り!」
子供三人がパパの帰還とばかりに、すぐさま駆けていく。
「おう。帰ってきたぞ」
龍星轟の紺色ジャケット、変わらぬ佇まい。細長いパパの身体に子供三人が一斉に抱きついた。
「父ちゃん、県境までいけたのかよ」
「あったりめえだろ。ちょっぴり超えて高知に入ったところで帰ってきた」
「矢野じいが、無茶だって言っていたわよ」
「はあ? 年寄りの言うことなど真に受けるなよ」
「父ちゃん、お帰り。今日、僕たち釣りしたんだ。おかずの魚、釣ったんだ」
「おお、すげえな。父ちゃん、腹減ってるからいっぱい食うな」
子供達それぞれに受け答えをした後、英児が店先に佇む琴子に笑顔で手を振ってくれる。
「帰ったぞ、琴子」
「お帰りなさい」
無事に帰ってくれてホッとする。どんなに走り慣れていると言っても、やはり待っているのは、彼と離れている間はなんとなく落ち着かない。
それから次々と後続車が到着――。