ワイルドで行こう
悪ガキらしくやんちゃに帰ってきたスカイラインとは対照的に、次にお行儀良くスマートに停車したのは、なんと真っ白なフェラーリ『F430』! 小鳥の予想も当たっていた。
「南雲さん、お帰りー!」
今度、子供達はその真っ白な高級車へまっしぐら。
「ただいま。龍星轟ジュニア」
そこから、この走る会では珍しいスマートな身のこなしの、品の良い男性が運転席から降りてくる。
龍星轟の中でも上得意様である地方有名企業のご子息。といっても、英児と同世代の中年男性ではあるが、その温厚そうな佇まいと仕草はいつもエレガントで『元悪ガキ』である夫とは対極している。それでも車ひとつで仲の良い二人。
そんなまだお兄様にも見える『素敵なおじ様』は、子供達の憧れでもある。憧れというのは『いいところのご子息、エレガントな大人の男』という意味ではなく。『フェラーリに乗っている大人』という意味で。
「南雲さん、乗ってもいい?」
長男の聖児が真っ先に運転席に乗り込もうとしている。そこも寛大な男性。『いいよ』といつも子供達を『憧れのフェラーリ』に乗せてくれる。
「F1マチックのフェラーリ、早く免許をとって運転してみてー」
まだ子供の聖児でも夢見てしまう、男の夢がつまった車。それを子供の時に直に触れられることなんて幸運だと琴子は微笑ましく見守っている。
フェラーリに続いて到着したのは、これまた末っ子の予想が大当たり。長年の常連さんである、三菱の赤いランサーエボリューションを乗り続けている高橋さん。そして琴子の勤め先の上司である『三好ジュニア社長』も愛車のセリカで到着。夫の『走る会結成』を話すと『俺も仲間に入れろ』と参加してくれるように。
まだまだ。マツダのRX-7サバンナ、日産の180SX、スバルのインプレッサ、ホンダのNSX、トヨタのスープラ。英児と同年代である男達が青春時代から大事にしていた車もあれば、日産GT-Rのような新種を愛車にしているおじ様に、そんなお父さん達に憧れて状態がよい中古を探し当て憧れの車種を愛車にしている青年達も。
海辺の小さな喫茶の小さな駐車場は、年代も車種も様々な野郎共の愛車十数台であっという間にいっぱいになる。