ワイルドで行こう
「いやー、やっぱり目立つんだろうねえ。年代物の国産車の中に、真っ白なフェラーリって光景がまたねえ」
マスターも毎回圧巻されている。自分の店の前を通り過ぎていく普通車から物珍しそうに眺める人々の顔もよく目に付くからなのだろう。
そして。そんな琴子も胸がドキドキしている。身体もちょっと熱くなる。こんなに沢山の車が大集合するのは、自宅の龍星轟でもなかなかない。自分も既に車好き、これだけ集まるとわくわくしてしまう。そして車好きの男達の熱いムードにも。
そんな男達がちょっと羨ましい。自分も一緒に愛車のフェアレディZでついていきたかったな、走りたかったな――なんて思いを抱いても、でもここは男同士だからこその楽しみ方があるだろうと、琴子はこの『走る会』につていは一歩引くことに決めている。
なによりも。そんな車に走り屋野郎共のど真ん中にいて『楽しかったな!』と、皆の笑顔までもリードしている夫の英児を見ると、いまでも琴子は彼にときめいている。
いつか、彼が真顔でワックスがけをしていたあの格好いい姿同様、車が好きで好きで堪らなくて、そしてそんな男達のために店を経営し、以上にこうして楽しむリクリエーションまで走り屋のために尽くす姿。いつまでも車を愛する夫の姿に――。
そんな笑顔だった英児がふと何かに気がつき、眉をひそめた。
「翔はどうした」
一台、戻ってきていない。それに気がついたようだ。
そして『翔』と聞いただけで、娘が弟たちと夢中になって眺めていたフェラーリから離れ辺りを心配そうに見渡したのを琴子は見てしまう。
「翔なら、一番後ろを任せていたから、少し間をおいて走っていたんじゃないかな」
後尾にいた青年がそう答えた途端、また海辺の西側から、高く響くエンジン音。親父チームに青年チームが揃って国道の向こうに目を懲らす。それも一瞬で、あっという間にこの店先にトヨタの青いMR2が滑り込んできた。
「すみません。遅れました」
礼儀正しい生真面目そうな青年が運転席から降りてくる。
「おう、翔。後尾を引き受けてくれて有り難うな」
「いえ、社長。俺は店のもんですから」
お客さんを置き去りにしないよう、後ろを走る。英児もたまにその役を引き受けるが、常連客は滝田社長とも爽快な走りを楽しみたいという要望もあり、先頭を走ることが多くなる。そこをたまに走る矢野さんや、龍星轟従業員の若い彼が引き受けてくれることが多い。
「お疲れ、翔」
「ありがとうな、翔君」
顧客にねぎらわれ、やっと彼がはにかむ微笑みを見せる。