ワイルドで行こう
「このお店に初めてお父さんがつれてきてくれた日に、そこの磯辺でパパとママは恋人同士になりましょうって約束をしたの」
聞き届けた娘が『え、そうだったの!』と目を見開いてびっくりした顔。
「あ、だから。記念のお店だからここで結婚披露宴をしたの?」
「うん、そう。お母さんから無理にお願いしたの。どうしてもここでやりたいって」
「そうだったんだー」
「だから。ここが、お母さんもお父さんも大好きなの。思い出の場所だから。時々、恋人気分に戻っちゃうの」
「そっか、そうなんだ」
娘が嬉しそうに笑ってくれる。
「聖児や玲児にはヒミツよ」
「うん。ヒミツ」
女の子同士だから話せる『恋の話』。それが小鳥には、大人のママと対等に女の子との話を分け合えたと、なお嬉しいようだった。
「小鳥ちゃんも、素敵な恋をしてね」
そう言うと、娘の目線があっという間に『新入り整備士のお兄さん』へ向かっていってしまう。そんな人目も気にする間もない、素直な乙女心。
でもその娘がそっと琴子に呟いた。
「父ちゃんのハチロクにすぐには乗せてもらえないかもしれないから、私、それまではMR2に乗ってみようかなー、なんて」
そう教えてくれる娘。
この瞬間。琴子は娘があの生真面目な青年に恋心を抱いていると、確信してしまう。
そして娘がさらに付け加えた。
「私がMR2に乗りたいって話もヒミツなんだ。お母さん、お父さんには私が言うまで絶対に教えないでね」
思春期を迎えたばかりの少女らしさが伝わってきた。MR2を乗ることで、あのお兄さんを気にしていることを、小鳥は遠回しに琴子に伝えてくれている。
まだはっきり恋をしていると言えないお年頃だからこそ……。