ワイルドで行こう
「わかりました。女の子同士のヒミツ、ね」
女の子同士のヒミツ。それを娘と分け合う。母娘でも『女心』は一緒。だからこその『ヒミツの約束』。
「あ、オカミさん。ノンアルコールのビールが切れちゃったんですよ」
女の子同士のヒミツの空気にそっと切り込んできたのは、MR2の翔兄さん。
すぐに娘が緊張した顔になった。
「もうないなら、俺がそこのコンビニまで買いに行ってきますけど」
「ううん。ちゃんとストックがあるわよ。小鳥、冷蔵庫にあるから教えてあげて」
「……わかった」
気後れした様子で、娘が厨房の大きな冷蔵庫へと彼を案内する。
「あ、いいぞ。小鳥。俺が持っていくから」
「ううん。手伝う」
両手にノンアルコールのビール缶を抱え、娘は翔と微笑みながら行ってしまった。
――初恋、なのかしら?
そこは母でも不明。おませな女の子はもっと前から、お気に入りの男の子がいそうなものだから。
でも。この恋心はずっと大人に近い気持ちで、娘の胸を熱くしているのがわかってしまう。
女の子同士の、ガールズ・シークレット。
この日のヒミツのまま、数年後、小鳥は翔から譲り受けた青いMR2に乗って外に飛び出していくことになる。
それをじっとどこまで見守れるのか、琴子ママは今からドキドキしている。
※次回、小鳥視点の5話で【ファミリア編】終了予定です。