ワイルドで行こう
皆の『えっ』と目を丸くしている顔という顔を傍目に、小鳥は女の子を抱いて走り出す。
「あなたもいっしょに来て」
彼女と一緒にいた子にも声をかける。
「は、はい」
その時になってやっと、喧嘩相手の茶髪男も小鳥に追いつく。
「俺も行く、俺がその子かかえるから」
「さわんな。女の子にたやすく――」
小鳥が睨むと、茶髪の彼もそこはぐっと唇を噛んで退いてくれた。
少し背丈がある黒髪ロングポニーテールの三年生。滝田小鳥。この学校では何故か有名人?
そんな小鳥のことを、この学校の子達はこう呼ぶ。
『やっぱ男前』
『滝田先輩、素早い』
そして時にはこう言われる。
『ヤンキーの子』
もう慣れっこ。気にしたことなんてない。本当のこと。
でもひとつだけ違うんだけど!
『お前の母ちゃん、元ヤンだろ』
ママは元ヤンじゃない!
―◆・◆・◆・◆・◆―
職員室横にある小さな部屋『進路指導室』に、茶髪の同級生と一緒に閉じこめられた。
目の前に原稿用紙。五枚。びっちり反省文を書け。それが先生からのお仕置きだった。
「くっそー、いつまでここに閉じこめられるんだよ」
目の前の彼はもう書き上げていて、退屈そうだった。
茶髪のチャラ男にみせかけて、ちゃんとやれるんだから、腹が立つ。
向かいの席でまだ書いている小鳥の原稿用紙を覗かれたりする。
「やめてよね。見ないでよ」
そうして小鳥が嫌がるから、彼がおもしろがって原稿用紙を奪おうとする。そこでまた小鳥がむっとして席を立ち上がったら、彼が『ふん』とその原稿用紙をあっさり返してくれる。
「お前の字、すげえ綺麗だな。きちんと整っているし」
「あんたこそ、書くの早いね」
茶髪のチャラ男だけど。この『高橋 竜太』はそこそこ成績の良い男で、小鳥と一緒で『なんでもやることが早く』、要領もいい。身なりがチャラくてもそういうところ『デキる』から女の子もよく見てるようで、モテるというかなんというか。
「花梨ちゃんに謝ってよね」
このチャラ男。小鳥の親友、花梨ちゃんのカレシ……だった。