ワイルドで行こう
もう喧嘩の話はよそう。このことに触れると空気がすごく息苦しく感じると思った小鳥は、読ませてもらっていた原稿に目を戻し話題を変える。
「竜太って、新聞記者になれるんじゃない。うち、新聞社にずっと勤めているおばちゃん知ってるから見せてみたいね。大学生になったらバイトさせてくれるかも」
「それマジかよ」
今度はまっすぐに真剣に見つめられる。
いつも喧嘩ばかりしている男だけれど、いつもと違う真剣な眼は男っぽくて、そして怖くて、さすがの小鳥もちょっとひやっとさせられる。
「う、うん。うちのお母さんの、大学の後輩で。よくうちに来るんだ。事務員おじさんの奥さんで……」
だけどそこで竜太は我に返った顔を一瞬見せると、『ふん』といつものだらしのない格好で机に腰をかける。
「あほくさ。バイトなんてめんどくせー。それに俺、大学いかねえし」
でも。小鳥はわかってしまった。こいつ文才あるかも、ほんとは書くことがやりたいのかも。でも……『母子家庭』だから、お母さんのことを思って? しっかり真面目に勉強した方がお母ちゃん喜ぶんじゃないの。そう言いたかったけれど、言えなかった。
「でも。お前のかあちゃん、大学いってんの」
「うん。郊外にある女子大だけど」
「え。あそこってお嬢様学校だろ」
「は? それってどういう意味」
小鳥が眉間にしわを寄せて睨むと、また竜太が『あんだよ、その目』となにやら構える。
「言っておくけどね! うちの母親のあの噂、ちが、」
違うからね! と、また喧嘩腰になろうとした時だった。
進路指導室の開け放たれている窓から『ドルンドルン、ドルルン!』という爆音。
その『聞き慣れたよく知っているマフラー音』に、小鳥はギョッとして窓辺に駆け寄った。