ワイルドで行こう



「すっげー音、なんだよ。あの車」
 
校舎の真下に、見慣れた車が! 

「うっそー、もうやだっ。先生、本気で怒ってる!」

 思わぬ展開に、小鳥は顔を覆って落ち着きなく指導室を右往左往。
 その車を見ている竜太もやっと気がつく。

「もしかして。あのすんげえ車。滝田の親父の車? おまえんち、あの龍のステッカーの車屋だもんな」
「違うっ。アレは親父じゃない」

 え、と。竜太が窓からその車を再び見下ろす。

 エアロパーツでクールに、でも厳つく決めている『銀色の日産車』。バタリと運転席のドアを閉め、そこにすっくと立つ品の良い女性が一人。

「あれ。すげえ綺麗な人が出てきた」
「……だから。うちのお母さんだって」

 『え』と、また竜太が目を丸くして、小鳥を見て、そしてまたフェアレディZから出てきた黒いスーツ姿の女性を見下ろしている。

「はあ? だってすげえエレガントな、ワーキングママって感じじゃん。お前んとこの母親って、茶髪でバリバリのヤン車を乗り回している元ヤンだって……」
「だ、か、ら! それってただの噂だから!! 元ヤンは親父の方、オヤジは完全に元ヤンだから言われてもいいけど。ママは違うから!……あ、でも。ヤン車じゃないけど、あんな車はバリバリ乗っているんだよね」

 がっつり『走り屋仕様』に固められた、日産のフェアレディZ。
 どうみても男がオヤジが乗っていそうな車なのに、そこからタイトスカートの黒いスーツをすらりと着こなしたエレガントな女性。

「やっぱ。お前の母ちゃん、すげえや」

 そこでやっと竜太が言ってくれる。

「あのなりで、親父さんが手入れした車を乗り回しているって。マジ、車屋のオカミさんってかんじじゃん」

 でしょ、でしょ! やっと小鳥も満足、得意げになって胸を張る。

 だけど……今はそうじゃなくて……。ついにママが学校に呼ばれちゃった、てこと。小鳥はすぐにがっくり項垂れる。


 

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