ワイルドで行こう
「お母さん、ごめんなさい」
職員室での話が終わり、わざわざ来てくれた母に小鳥は頭を下げて謝る。
呆れた目つきで小鳥を見る母。目線がもう小鳥より下、背丈は中学生の時に超してしまった。でも、ママが怒っている時の目は今でもやっぱり怖い。
だけど、本当に恐ろしいのは実はママじゃなくて――。
「でも。すぐに女の子を保健室に連れて行って、謝ったのね」
呆れた溜め息をこぼしながらも、母の声は少し柔らかかった。
でも目は怒っている。合わせられない。
「彼女が登校してきたら、もう一度、お詫びをしておきなさい」
「はい」
そして少し離れた廊下の片隅でも。小鳥と同じように顔をしかめている母親に、なにやらくどくど説教をされている竜太の背中がある。
彼も項垂れて、言い返さず。そして『ごめん、母ちゃん』の小さな声が聞こえてきた。
――『仕事中、ごめんな』。
女手ひとつで育ててくれている母親。竜太は弱いようだった。
「滝田さん、ごめんなさい。すぐに戻らなくちゃいけなくて。夕方、仕事が終わったら、連絡しますね」
「わかりました。私も時間を合わせておきます」
竜太の母は、琴子母ににっこり手を振るとすぐさま階段を駆け下りていってしまった。
そして小鳥もハッとする。
「わ、お母さんも仕事中だったんだよね」
「そうよ~。三好社長が『またか』と笑って送り出してくれたけどね」
やーんっ。三好のおじちゃんにもまた『英児君の娘だなあ』と笑われるー。小鳥はまたがっくり肩を落とす。
「お母さんもいかなくちゃ。本多君がギリギリまで原稿を粘っていて、出来たら直ぐにクライアントさんに見せなくちゃいけなくて」
うーん、本多のおじちゃんにも『おまえ、またかよ。なんで母ちゃんに似なかった』とか、ぐさっとくること平気で言われそう……と小鳥はさらなるため息をつく。
『小鳥が免許を取ったら、最初の車に貼る、小鳥だけの龍星轟ステッカーをデザインしてやるからな』
ずっと龍星轟のステッカーを専属でデザインしてくれる三好デザイン事務所のデザイナーのおじさん。ママの同僚。あのデザイン事務所で、おじさんのデザインを眺めているのが好き。よく遊びに行く。
あー、暫く、行かない方がいいかもー。
おじさんに『可愛いステッカーがいい』とこっそり言おうと思っていたのに。