ワイルドで行こう
誰も女らしい――なんて思っていないだろうけれど、本当はママが持っているような女の子らしい小物とか大好き。今は二世帯住宅になって同居をしているお祖母ちゃんと手芸をするのが大好き。
でも誰も。小鳥がママのような女らしい、女性らしい、可愛い人。だなんて思ってはいない。
そして小鳥も、こんな性分だから、それを見られて『男っぽいくせに、似合わないセンス』と言われるのがイヤでおおっぴらにしていない。
「ごめんなさいね、高橋君。ほっぺたの、ここ。もしかして小鳥がひっかいたの」
考え事をしていたら、琴子母が背が高い茶髪の男の子の顔を覗き込んでいた。
「い、いえ……。当たっただけです」
真っ黒のフェミニンスーツに、白いブラウス。三好堂印刷を完全に引き継いだ二代目社長の補佐をしているママは、印刷会社と事務所を切り盛りする社長と共に毎日忙しくしている。
そういう『きちんとしているオフィスママ』に見つめられて、あの竜太が緊張しているのがわかる。
「ほんと、うちの子、悪気はないはずなんだけど……」
そんな琴子母の目を見た竜太が、急に小鳥をキッと鋭い目で見た。
え、なに。やっぱなんか腹に据えかねるものがあって、ママに言おうとしている?
竜太が小鳥の目の前までさっとやってきたかと思うと、腕をひっつかまれ、琴子母のところまで引っ張っていく。
そして彼は琴子母の目の前で、小鳥の制服のブラウスの袖口をめくった。そこにはガーゼを貼り付けた手当が。
「俺のなんか、ほんのかすり傷。こいつもガラスでここ切ったんですよ。そのガラスが割れるようにしちゃったのは自分だし、彼女の腕を弾き飛ばしたのも俺なんです」
母が小鳥を見る。『なぜ、それを言ってくれなかったの』と言いたそうな目。
「血は滲んだだけ。だって。悪いのは私も同じだもん。怪我が軽い竜太だけが責められそうでイヤだったんだもん。竜太のお母さんも気にしただろうし」
「……こいつが。進路指導室で反省文を書いている間に、絶対に俺だけが悪くなるから言うな……と言ってくれたんです」
琴子母がちょっと驚いた顔を見せ、でも落ち着いたまま黙って、小鳥と竜太を交互に見た。
「そう、だったの……。そう……、うん、わかった。じゃあ、このことはお母さんが、私が聞いておくね。二人で決めたことなら、そうしなさい」
だから小鳥の怪我のことを話し合いには出さない。喧嘩は両成敗――ということにしてくれた。