ワイルドで行こう




 
 ――と、思いたかった。
 
 

 ガラス割り騒動から数日。午前の静かな教室では、日本史の授業中。

 小鳥のひとつ向こうの窓際列にいる竜太も、あくびをしているが、真面目にノートをとっている。

 あいつめ。ああやってふぬけた状態であの成績はどういうことなんだ。いつも思う。

 あの後、花梨ちゃんとも仲直り。二人が一緒に下校する姿も元通り。怪我をした女の子も『滝田さん、すごかった』と笑って許してくれて、彼女のお母さんも『気をつけてね』と収めてくれ、全ては丸く……。


 ドウン、ドウン、ドド、ドウドウン。


 静かな教室に重いエンジン音――。

 うわーー! それを聞いただけで、小鳥は席を立ち上がってしまった。

「た、滝田、ど、どうした」
「あの、その。えっと、」

 この『くせのあるアクセルの踏み方』。このエンジン音。車は、日産の――。

 日本史の先生と目があったけれど。先生も……小鳥をじっと見て何か判っている顔!

「うお、すげえ。真っ白ピカピカのGTRだ」

 窓辺の男子達が下を見て騒ぎ出す。

「先生、窓の下を見てもいいですか!」

 立ち上がっているけれど、小鳥はさらに手を伸ばして、先生に問う。
 だけど先生は既に、窓辺を見下ろしその車を確認。

「日産の、GT-R。すごい新車だな。しかもあのスタイル……」

 『かっこいいな』とうっとりしている先生の隣から、小鳥も見下ろした。

 駐車場に、ピカピカ真っ白の日産GT-R。龍星轟に新たに仲間になったマシン。

 その白い車の運転席から、グレーのスーツ姿の、しかもサングラスをかけたくわえ煙草の男が出てきた。

「うわ。なんだ、あのおっさん」
「どっかのおっかねえとこの、やばいおっさん?」

 男子も女子も窓辺を覗いてざわめく中、先生が小鳥を見る。

「えー、残念でした。車に龍星轟のステッカー。親父さんみたいだな」
「えーなんでなんで!? 先生、あのことはもう終わった話、に、なっていますよね?」
「……だと聞いているけど」

 普段は作業着ジャケット姿で、スーツなんて滅多に着ない親父さん。
 それがスーツ姿ってことは、出張から帰ってきてここに速攻向かってきたってこと?
 つまりそれだけ親父さんも『カッとなってここに来た』ってこと。

 やばい。まだ窓割りの件は終わってない模様!











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