ワイルドで行こう
 しかしその後。彼が帰った後――。母に『まだよく知らない人同然。あまりにも彼を頼りすぎでは』と釘を刺してみたが、母はあっさり。
「滝田さんになら、騙されてもいいわ、お母さん」
 と言い切られ、もう言葉を失う琴子。……琴子だって、本当は。でもこんなにいい話が続いて良いものなのか。
「……だって。母さんよりもずっと警戒心が強い慎重な琴子が、一番、彼を信じているような顔をしていたよ」
 先週、半ば強引に彼が母をスカイラインに乗せた時。何故、見知らぬ男にこんな車に乗せられるのか。ずっと警戒していたのは母の方。
「なのに。あんたったら、助手席で本当によく知っている知り合いみたいに安心した顔をしていたんだよ。二ヶ月以上も会っていない、たった一度話しただけの人のはずなのに」
 母親に言われてはじめて。まだ良くも知らない彼のことを、琴子が一番、信じ切っていることに気がつかされる。
「それに彼。仕事もしっかりしているんじゃないかしら。名刺の数、すごかったわよ。ただの知り合いがあんな多いわけないと思うわね。しかも綺麗に整理して、几帳面そう。車も綺麗だったし……」
 本当に、まだ彼のことよく知らない。互いのこと、全然話し合ったこともない。
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