ワイルドで行こう
そこへ辿り着いても、親父さんは小鳥にも顔を上げてくれない。
「先日のことを詳しく聞きたいといらしてくださったので、お母さんにお伝えしたことと同様にお話しをしたのだけれどね……」
先生が困っている顔を見て、小鳥もわかった。
母が『承知しました』と納得した事情を、父は同じように納得することができなかったのだと。
「お父さん。お母さんから聞いてきたの」
そう声をかけた途端だった。うつむいていた父がやっと頭を上げたかと思うと、幼い時から『この時だけは』という『ガン』を飛ばしてきた。
小鳥だけじゃない、隣にいる教頭先生もビクッとしたのが伝わってきた。
つまりそういう眼。元ヤン男特有の、眉間にバリバリのしわを寄せ、この上ない眼力で下から睨み付けてくる!
「おい、オメエ。ずいぶんと清々しい顔してんじゃねえか」
さらに小鳥の全身にぞわっとした冷気が駆け上がってくる。
いつもガハハと笑い飛ばしているおおらかな父ちゃんが、本気で怒るとどれだけ怖いか。娘の小鳥は父親に対して『それだけは』避けていきたいと気をつけている。
今回のことも、琴子母が収めてくれたから、信用している母親のところでなんとか鎮まったなら『俺の出番はナシ』で流すだろうと思っていた。
だけれど小鳥の心の奥でこうした問題を起こした時、『俺の出番はナシ』で済むか済まないかを確かめてからではないと『すっきり終われない』ところもある。
それでもほとんどの場合は、琴子母の段階で収まったら『オメエ、気をつけろや』とか『人様に迷惑ばかりかけんなや』など、やや強面でも軽い一言で締めくくってくれていた。
今回も最後はその程度と――。
だけど。違った。今回の父ちゃんはけっこうキテる。マジギレしてる!?
『お父さんが本気で怒っている』!
それを悟った小鳥が一気に強ばり言葉を失った様子を察知した教頭先生が割って入ってくる。
「あのお父さん。小鳥さんは反省をしておりますし、小鳥さんのお母さんも先方のご自宅まで足を運んで、そちらの親御さんも了承してくださいまして、子供同士でも解決しているんですよ」
だが。そこでスーツ姿の父がすっと立ち上がった。
小鳥の前に立ちはだかっている教頭先生の真ん前まで迫ってくる。
普段は油とか泥埃で薄汚れている親父さんだけれど、今日のようにスーツを着てきちんとすると、その佇まいにグッと威厳と男の格を醸し出す。
そんな親父さんは、『いいとこのお嬢さん』と言われていた品良い琴子母の隣に並ぶと本当にお似合いの夫になる……と皆が言うし娘でも密かにそう思っている。その雰囲気を、いまここで一気に放った。