ワイルドで行こう
「親御さんにも午後、お詫びにいきます。ですけど、親御さんじゃなくて。ご本人にどうしても親父から詫びておきたかったので、押しかけてしまって申し訳ない」
「ほんとに、もう良かったんです。でも……その、有り難うございます」
艶々した肩先までの黒髪、前髪はきちんとヘアピンでポンパドール風にしている眼鏡の彼女。
地味だけど品がある、やっぱりピアノをずっとやってきた『お嬢様』だなと小鳥は感じていた。
「お父さん、ほんと、私も困りますし。母のところまで来て頂かなくて結構ですから」
「いえ。そういう訳にはいきません」
彼女の困り果てた顔。周りには二年生が何事かと集まってくるし、注目の的になってちょっと頬が赤くなっていた。
「ええと。お父さん、そろそろ授業が始まりますので」
教頭先生のかけ声で、父もやっと気が済んだようだった。
だけど最後。眼鏡の彼女をじいっと見下ろしている。
彼女もそれに気がついて、背が高い親父にじろじろ見られて恥ずかしそうにうつむいてしまった。
「お嬢さん。将来、絶対いい女になると、おっちゃんは思うな」
「は?」
この親父、なにを言い出すの!
小鳥もびっくりして、父の黒い革靴を踏みつけたくなった。
だけど親父さんはすっごい真顔。さらにちょっと頬を染めているのはなんなの?
「の、野田さん。ごめんなさいね。父ちゃん、なに言い出すのよ」
「あ、わりい……」
そして親父さんがこそっと小鳥にだけ聞こえるように言った。
「だってよ。写真で見た高校生の時の琴子と似ているんだもんな、彼女。俺が高校んときに彼女がクラスにいたら、絶対に気になっていたわ」
もう小鳥はぶっと噴き出しそうになった。しかも極めつけ。
「母ちゃんと同じ匂いがする。彼女、大人になったらいい女になるぜー」
出た、『母ちゃんの匂い、大好き』。
また匂い? しかも、女子高生にそれを感じるなんてサイテー!
「お母さんに女子高生に反応したって言いつけてやる」
だけど親父さんは落ち着いて笑っていた。
「おう、言ってもいいぜ。母ちゃんと同じ匂いがする女はみんないい女ってことだからよ」
はあー、ぬけぬけと。この親父さんは女房に惚れてますってことをほんとあっけらかんと言い放つから困ったもの。