ワイルドで行こう
「滝田さんも、授業が始まるよ。お父さんは先生がお見送りするから」
先生に言われ、小鳥は教室へ向かう階段で父と別れる。
「じゃあね。父ちゃん……。あ、お母さんから聞いてきたの? お母さん、止めなかったんだ」
だがそこで父がさっと娘から目を逸らしてしまったので、思わぬ父の反応に小鳥は『え』と驚いた。
「えっと、まあ、そのだな」
困ったように親父さんが頭をかく。それで小鳥はさらに驚いた。
「まさか。お母さんに何も言わずに、来ちゃったの」
「そのよう、空港から帰ってきて直ぐ、矢野じいから何があったか聞いてカッとなっちまって」
うわー。『矢野じい』が犯人だったのか。
小鳥は目元を覆って少しよろめきそうになる。
父ちゃんの『親父さん』でもある矢野じい。
今は龍星轟の『相談役』として現場監督みたいなことをしているけど、整備からはほぼ引退。だけど日々、事務所で龍星轟を見守っている。
そんな龍星轟にとっても大事な存在だけれど、最近かなり『おじいちゃん』になってきてしまい、なにかあると直ぐに英児父に話してしまう。逆に英児父になにかあると、琴子母にすぐ報告とか。
そっか。父英児を止められる人が誰もいなかったのか――と小鳥も親父さんがすっとんできてしまったこと納得。
矢野じいもだめ、専務の武ちゃんも親父さんには最後には勝てないし――。今となってはこの『ロケット親父』を止められるのは琴子母だけ。
「もう、どうすんの。お母さんが帰ってきて知ったらどうなるか」
そこでやっと、英児父が我に返った顔でビクッと背筋を伸ばした。
それを見ていた教頭先生が、ついに我慢しきれなくなったのか笑い出していた。
「あはは、そうなんですね。いえね、私も嫁さんの尻にしかれていますから。わかります、わかります」
だけど教頭先生は思っただろうな。
『今度は絶対にお母さんの方にしっかり報告をして、お父さんを抑えてもらう歯止めになってもらおう』と。
二度と元ヤン親父が襲撃してこない方法を知ったことだろう。
――今夜、まだ、荒れそうだな。
ふと思った小鳥は、またため息をついた。