ワイルドで行こう
そして、そんな時の母もまんざらでもないようで、『もう英児さんたら』と渋々しつつも、英児父の腕の中でくったり力を抜かれてしまう……。それって父が上手なの? とか思っちゃうほどに。母はそういう父に弱いようだった。
だから、もし。いま、寝室でもそうであれば。
「そろそろ終わるんじゃね。父ちゃんが甘えてきたら、母ちゃん弱いもんなー」
ほら。弟の聖児まで。きっと姉の小鳥とおなじ両親の姿が『ぽん』と、浮かんだようだ。 そこで末っ子の玲児も間に入ってくる。
「じゃあ、さあ。母ちゃんが許しちゃったら、姉ちゃんの免許取得延期を取り消すように言えなくなっちゃうってこと?」
「んだな。そういうことになっちまうなあ。どうすんだよ、姉ちゃん」
普段は生意気な聖児も、そして無垢な眼差しで心配してくれる末っ子玲児が、じっと小鳥をみた。
「お母さんが助けてくれようとしても、もう私も自分で決めたからいいの。お母さんにもそう言うつもり」
「それでいいのかよ」
「そうだよ、姉ちゃん。あんなに楽しみにしていたじゃん」
こんな時、弟二人がいて……心強いなとかは思う。
『小鳥ちゃんの免許取得延期。これを職員室で言い渡したことも、まっすぐな小鳥ちゃんがそこで真意を理解して、自らそれを受けることだってわかっているはずなのに。沢山の人がいる前で、あの子がいちばん悲しい思いをするはずのことを決意させたわね』
姉弟が気にしている『問題』を、ついに琴子母が持ち出した。
親父さんの『琴子~、悪かったよ~、なあ、なあ。ちゅっ』といういつもの甘えっ子も効かなかった様子。
『だから。それも、周りが見えなくなって――』
『カッとなって? それで?』
そこから会話が途切れたよう。父が何も言い返さない様子が伝わってくる。