ワイルドで行こう



『お願い。小鳥ちゃんの免許取得延期。取り消して。もう充分でしょう』
『だめだ。それは父親として譲れねえ』
 

 カッとなって。周りが見えなくなって。大人げない行動を取った。筋は通した、だけど、やり方がちょっとまずかった。それでも譲れないものは、譲れない。小鳥には親父さんのそんな気持ちが、我が事のようにわかってしまうから困ったもの。


「クソ親父。融通きかねえな」

 小鳥の隣で、茶髪の英児がちっと舌打ちをした。
 そんな弟の横顔とか、雰囲気が、こちらも違う意味で親父さんに似てきたなあと、小鳥は感じている。

 そして、またそこで両親の会話が途切れた。二人が互いの思いを譲れずに無言で牽制している姿がまた目に浮かぶ。
 


『わかりました。英児さんのことだから、きっと貫くだろうと思っていました』
『……琴子。だから、悪かったと思っている。けどよ、学校だろうとこの家だろうと、俺は、同じ事を小鳥に言ったしさせたと思う。だから』
 

 あー、母ちゃんが折れちゃった。

 弟二人ががっくり項垂れる。我が家の最終大型堤防でもあるママが合意してしまったら、それ以上はどうにもならない。
 弟たちまで気の毒そうに姉の小鳥を見る。でも小鳥本人の気持ちはもう決まっているから笑ってみせる。

「いいんだって。これで」
「俺だったら、絶対に折れないけどな」
「そうだよ。姉ちゃん」

 だけど小鳥は頭を振る。

「本当にいいの。その代わり、じっくり車でも選ぶよ」
「ぜってえ、ハチロク以外な」

 聖児とは『父のハチロク』を狙っているライバルでもある。だけれど、父は絶対に譲らないと言い張っている。いつか譲ってくれる気になったとしても、おそらくずっと先だろうと小鳥は思っている。
 

『なあ、琴子。もうそんな顔するなよ。俺、今朝、帰ってきたばかりなんだぞ。帰ってきてお前が笑ってないって寂しいだろ』
 

 また父が大好きな母に甘える声。




< 471 / 698 >

この作品をシェア

pagetop