ワイルドで行こう
「はいはい、終了~」
今から『お馴染みのべったり』が始まるので、聖児が呆れた顔でそう言ってリビングに戻ろうとする。
玲児も『まただ、もう』とぼやきながら、そして小鳥も『いつものこと』と溜め息をつきながら――。姉弟三人、盗み聞きがばれないよう廊下から去ろうとしたのだが。
『離してください。私、今日は母のところで休ませて頂きます』
そんな琴子母の毅然とした声が聞こえ、去ろうとした三姉弟は振り返る。
『おい、まてよ。なんでだよ』
『なんでって! 小鳥ちゃんはしっかり受け入れたのだから、英児さんだって考えてよ!』
なんでも筋を通せばいいってもんじゃないわよ。
あの大人しい、いつだってにっこりその場を和ませてくれる琴子母が勢いよく言い捨てる声が聞こえたかと思うと、両親寝室のドアががちゃっと開いた。
三姉弟は慌ててリビングへと走った。
リビングでテレビを見たり、雑誌を見たり、ソファーに座ったりして元の姿に戻る。リビングに琴子母だけが戻ってきた。
ものすごく不機嫌な顔……。
黙ってまたキッチンに立って家事を始める無言の母だが、ものすごい鬼気迫るなにかが子供達がいるところまで漂ってくる――。
「盗み聞きはだめでしょ」
静けさの中、鋭く届いた声に三姉弟は震え上がる。
その中、聖児がふっと自室へとさりげなく消えてしまい、そんな兄を見た玲児もふいっとリビングを出て行ってしまう。
小鳥はひとり、リビングに残る。そして思った。あーあ、私が問題を起こしたせいだ。そうでなければ、今日、半月振りに帰って来た親父さんはまっさきにママを抱きしめたかっただろうし、そしてママはそんな親父さんの帰りを待っていたはずだし。『お前がいなくて寂しかったよ』とか『おかえりなさい、英児さん』と仲睦まじかったはずなのに。そう思うと、本当に自分が情けなくなる。