ワイルドで行こう



『小鳥ー、先に行くぜー』

 同じ高校の聖児が先に出て行った。

『いってきまーす』

 玲児もさっさと自転車に乗って近くの中学校まで。

「はあ、憂鬱だなあ」

 弟たちより支度がかかってしまうところ、ここはちょっとだけ女の子の小鳥。

 今日は綺麗に結い上がらなかったポニーテールのトップに大好きな青いラメ入りゴムを使ったのに、テンションが上がらない。

「でも、」

 あることを思い出し、小鳥は鏡の前で自然とにっこり、頬が緩んでしまっていた。

 昨日は代休で出勤していなかった『翔兄ちゃん』に、今日は久しぶりに会える。親父さんについて、スーツ姿で出かけていった翔兄。

 スーツを着込むと、キリッと凛々しいビジネスマンそのもの。お兄ちゃんは三十を目の前にして、すごくすごく素敵な大人の男性になってきた――と思う!

 その翔兄が『土産を買ってくるからな』と小鳥の頭を撫でてでかけていったこと、半月の間、毎日思い返して待っていた。

 それがあるもんねー。そう思うと、やっと気分がノッってきた! よし、これで学校へ行こう! 小鳥も部屋を飛び出す。

 リビングへの廊下を歩いていると、背後からなにやら両親が話す声がまた……。
 気になっていた小鳥は振り返ってしまう。

「もう、コンタクトがつけられないから離して」
「離さない。半月振りに帰ってきて、俺がなにを楽しみに帰ってくるか知っているくせに。随分と意地悪いな」
「意地悪いって……。離して、もう。時間がないの」

 琴子、琴子。

 そんな親父さんの熱く一生懸命な声。

 小鳥は眉をひそめる。あの親父ったら、ほんとうにどんだけ女房のことがが好きなんだと。





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