ワイルドで行こう
やがて、翔が運転する窓には長々と続く海岸線。潮の香がふわっとMR2の中に広がる。
そして……翔兄の髪の匂いも。男らしいスッとしたミントのような匂い。その匂いに小鳥はまたときめいている。
小鳥も、そっとポニーテールに結っているヘアゴムを取ってしまう。
小鳥の胸の下から腰まですとんと落ちる黒髪が、すぐに潮風になびいて窓から出て行きそうになったので慌てて手で押さえた。
がっちりとしたダイバーウォッチをつけている逞しい腕でステアリングを握り、ひたすら前を見据えている翔兄が静かに呟いた。
「また伸びているな、小鳥の髪」
「うん……。いつ切ろう」
「そのまんまでいいだろ」
そうかな。お兄ちゃんがそういうなら。私の唯一女らしいと思っているところだから、そのままにしておこうかな。
小鳥は胸の中でそっと呟く。
さらに、店で保っているような涼やかな目元になった翔兄は、海辺の道を遠く見つめて言った。
「……オカミさんに似てきたな、小鳥」
お母さんに似てきた?
小鳥は言われたこともない、でも言われてみたいことを言ってくれる男の人をそっと見上げる。