ワイルドで行こう
新ジュニア社長の許可をもらって、三好デザイン事務所の中へ。事務員さんに挨拶をして、隣のデザイン室へ。パソコンに向かってデザイン済みの版下を作っているオペレーターさん達にも頭を下げて……。皆が顔見知り。滝田マネージャーの娘、そして滝田モータースの娘として良く出入りさせてもらっている。
そして小鳥が特にここに来て会いたい人は、ここのデザイナー全員をとりまとめる『デザイン部のマネージャー』になった本多雅彦おじさん。今は個室を与えられて、そこで黙々とデザインを描き出している。
おじさんの印象は『お洒落だけど無愛想な人』。
目の前の紙と鉛筆しか見えていないのだろうか? というぐらい、デザインをすること以外には関心がないよう。
子供の頃からそう思ってきたほど『取っつきにくい人』だった。
そして数年前。小鳥はふとしたことから知ってしまった。
『雅彦おじさんは、ママの元カレ』だということ。そして良い別れではなかったということも。
それでも小鳥は、雅彦おじさんと琴子母が真剣な顔で向き合って仕事のことを話し合い、本気で言い合いをするところも目にしたことがあるので、母との過去を知っても『嫌な思い』は湧かなかった。
むしろ『嫌なこともあっただろうけれど、仕事を通した関係は本物になったのだろう』と、そう感じている。
それに雅彦おじさんのデザインに対する気迫をみてしまうと、仕事第一『女は重い』と感じる生き方をしてきたんだろうなと勝手に思ってしまうほど。実際におじさんは未だに独身で、もう結婚する気もないらしい。
その個室に来て、小鳥はドアをノックしようと拳を握る。
――『数日前から鬼気迫っているぞ』。
ジュニア社長兄さんの言葉を思い出し、小鳥はここまで来て急に緊張する。
本当に機嫌が悪いと、子供の小鳥にさえ『来るな!』と本気で怒鳴り追い出されることがあるから。
誰もが知っているそういう扱いにくい気性の持ち主。
でも、ほんとは……。
小鳥はもう一度拳を握り直し、深呼吸、ようやっとそのドアをノックする。
『はい、どうぞ』
思ったより、ゆったりとした声が返ってきたので、ほっとしてドアを開けてみる。