ワイルドで行こう



「朝から飲まず食わずだったみたいだ」

 はあっと大きな溜め息を落とし、脱力するように椅子に座り直し項垂れたおじさんをみて、小鳥も一緒に驚く。

「おじさん、いま気がついたの?」

 彼がこっくり頷いたのでますます小鳥は驚く。

「喉がカラカラだ。悪い、小鳥。そこの自販機でスポーツ飲料を買ってきてくれないか。小鳥も飲みたいものを買ってきな」

 机の上にある財布から、幾らかの小銭を取り出し、小鳥に握らせる。
 現世に帰ってきた途端、しぼんだような目元と覇気のない背中になってしまう雅彦おじさんを見た小鳥は――。

「おじさん。私、そこのコンビニでなにか買ってきてあげるから。ちゃんと食べて!」

 もらった小銭を握ったまま、小鳥は個室から飛び出す。
 『わ、待て。小鳥。それなら……金、もっと……』
 そんな力無い呼びかけも構わずに、小鳥は事務所から外に一直線。

 必死に呼び止める声なのにか細い、あれ、ほんっとに根を詰めていたんだと痛切に知る。だから小鳥は即飛び出していた。現世に帰ってきた今のうちに、なにか食べさせなくちゃ――。そんな思いひとつで。

 

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