ワイルドで行こう
だけれど、もう横顔が穏やかだった。
「ひさしぶりだな。今日はどうした」
再び鉛筆を動かし始めても、おじさんから聞いてくれたので小鳥もやっと肩の力を抜く。
「あのね、おじさん。実は……」
と、やっと昨日の喜びを笑顔一杯に大好きなおじさんに伝えようしたのに、穏やかになったおじさんが再び『あ!』と、しかめ面でグイッと振り向いたのでビクッと固まる。
「お前! この前また琴子を学校に行かせるようなことしていたな! 俺、あの時、琴子から『絶対にこの時間に仕上げて。じゃないと、他のデザインを持っていく! これ以上は譲れない!』と散々脅されて、すごい追いつめられて仕上げたら、その時間に琴子がいなくてすごい頭にきたんだ!」
相手が子供だろうがなんだろうが『デザインの仕事で支障がでたこと』はお構いなしに腹を立てる。そういうところ、おじさんも大人げないよと小鳥も言い返したくなったが――。
「あー、ごめんなさい。そうなんです。高校三年間、今度こそお母さんが学校に来ないようにと気をつけていたのに……」
だけど、そこで雅彦おじさんは小鳥と真っ正面に向き合い、ちょっと哀しそうな目でみてくれている。
「その……免許取得延期の話も聞いた。やっぱり滝田社長は厳しいけれど、そんなところきちんとしていて『しっかりした父親』だな。でも、小鳥は残念だったな……。お前、大丈夫か」
ほら。おじさんは本当は優しいんだよ。周りが見えるタイミングがちょっとずれているけれど、でも遅れてもちゃんと見てくれている。だから、小鳥は雅彦おじさんを嫌いになれない。
ただ。ママと恋人として上手くいかなかったことは、これじゃあ仕方がないなと痛感するけれど。
小鳥の気持ちに気がついてくれただけで充分。小鳥は雅彦おじさんに笑顔を見せる。
「うん。哀しかったけど、大丈夫。父が言ったことも私、すごく良くわかったからそうしなくちゃ気が済まなくなったの」
そこで雅彦おじさんが、感心するような溜め息をはあっとついた。
「お前、偉いな」
そして小鳥も照れる前にその続きを報告する。
「でもね! 昨日、翔兄ちゃんがMR2から新しい車に乗り換えることになって。そのMR2を親父さんが引き取って、もうすぐ私の車になるの!」