ワイルドで行こう
「天使に手を出すと、龍が飛びかかってくる。そういうイメージ。どんなに大人になっても、お前の頭の上には一生、龍がいるんだ」
滝田社長の娘として走ることも、どんなに手を離れてどこまで走れるようになっても、小鳥も龍からは逃れられない。車が関わる人生に、龍は付き物。そんな生まれなんだと雅彦おじさんが続け、小鳥もようやっと頷く。
「すごい意味が込められているけど。でも、かわいい」
おもわず、頬が緩んでしまう。髪は長くてもボーイッシュな外見と性格から、もっとクールなものを描かれるかと思っていたが、まるで小鳥の本心を悟ってくれていたかのように願ったとおりのキュートなイメージ。
もう言葉もでないほど、満足いっぱいにじいっとエンジェルステッカーを眺めていると、雅彦おじさんが足下に置いていた小鳥の通学鞄を手に取った。
そしておじさんは、手提げにぶらさげているマスコットを指さす。
「これ、実は小鳥の本当の趣味だろ」
七色の糸で編んだクマの編みぐるみ。鈴子お祖母ちゃんと一緒に作ったもので、小鳥のいちばんのお気に入り。
「他にも。お前が使っているシャープペンシル。ポーチ、ハンカチ、タオル。そして便箋やメモ帳。琴子にそっくりだ。しかも小学生の時からそれは見られた。琴子が好きそうな柄や絵柄、そっくり引き継いでいる」
小鳥はびっくりして固まった。おじさんったら。そういうところはすっごい目が利く。
「外見はやんちゃなお嬢だけど、本当はすごいガーリーな夢を隠し持っている、だろ。だから可愛く作っておくからな。でも小鳥らしいクールさも押さえておく」
頼まなくても、おじさんはもう小鳥というクライアントの気持ちをがっちり掴みきっていた。
「他に、クライアントさんのご希望は?」
おじさんの笑みは自信に満ちていた。
三好デザイン事務所がある時からさらに飛躍したのは、この雅彦おじさんのデザインが加わったからだと両親が話していることがある。
地方では敬遠されがちな斬新なデザインを思い切りするかと思えば、オーソドックスなものも王道を外さず個性的に仕上げる。いまはこの事務所のデザイン部長。
「やっぱりおじさん、すごい。私が頼みたいと思っていた通り。うん、出来上がるの楽しみに待ってる」
「車に貼って走るその日まで、何度か出来具合を確認に来いよ」
また楽しみが増えた。免許取得延期でも、その日は着実に小鳥に向かってすぐそこまで来ていると感じられた。