ワイルドで行こう



 『親父さんは、男の中の男だよ。あの人を嫌いになりたい人なんていないんじゃないか』。

 雅彦おじさんの言葉を思い出す。龍星轟の滝田社長はそういう人……。沢山の人がこの店に来る。オフでも父のかけ声で賑やかに集う。

 そんな雅彦おじさんがデザインする龍星轟のステッカーは、季節限定で年に四回限定品を作る。

 整備してくれた人や商品を買ってくれた人にそのステッカーをプレゼントするが、小売りもしている。雅彦おじさんのデザインが気に入った人が、気に入ったデザインをその時の気分で選んだりしている。

 事務所にはそのステッカーの販売棚も設置してあり、ちょっとしたアート展みたいになっている。小鳥が生まれる前から、もう二十年近く。そのデザインの数もかなりのものになっている。

「お母さん。今年の夏のステッカーの原案はもう見せてもらったの」

 スーパーの袋を小鳥も一緒に持って、母とガレージを出る。

「ううん。全然。本多君たら、ほんと、ギリギリまで決定してくれないというか……。スケジュールに対してのらりくらりするからね」

 琴子の管理で俺の仕事がまともに動く。いつかおじさんがそう言っていたことを思い出す。時間を忘れてしまう人だから、どうもそんな感じだなあと小鳥も思った。

「あら」

 ガレージを出ると、母が立ち止まった。隣は整備をするピット。その入り口に、見慣れない女性が立っていた。

「お邪魔いたします」

 品良く艶めく栗色ロングヘア。そして母と同じような上品なブラウスに大人っぽい上質そうなストールを首元に巻いているOL風の女性がそこにいた。

 そして母が思わぬことを言った。

「いらっしゃいませ。桧垣君を待っているの」

 桧垣君――、翔のことだった。そして小鳥は、しっとりしとやかなその大人の女性を見て悟った。

 ――お兄ちゃんの、彼女!?






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