ワイルドで行こう
そのとおりなのか、武智専務が眼鏡の縁を光らせ、これまた冷めた眼差しで琴子母を見た。
「そうでしょ、琴子さん。瞳子さんは、独身時代の琴子さんとよく似ているよ。きちんとした佇まいの良いところのお嬢さん。タキさんを初めて見た時どうだった? 車屋の男って考えたことあった?」
急に振られて戸惑う琴子母も、口ごもって直ぐには言えない様子。
「……まあねえ、その。初めて見た時はもう車を見ただけで『怖い』と思ったし、」
武ちゃんが『ほらね』と英児父を見た。
「でもそれは英児さんが怖い顔をしていたのもあるし、そこは桧垣君とは違うでしょう。それにここに来る前から二人は付き合っていたんだから」
「だけど琴子さんはタキさんの人柄を知るまで、出会うまで、結婚対象に『車屋』とか考えたことある?」
また琴子母が一時黙って、『ないわね』と小さく呟いた。
「それでも桧垣君は車屋であろうと、スーツのビジネスマンであろうと、瞳子さんを大事にする一人の男性としてはなんにも変わらないと思うのよ」
「そうかな~。翔はここに来てから、結構、車をいじるのに金を使っているんだよね。たとえしっかり貯金をしていても、『車に使わなければ、もっと貯められるじゃない。もっと良いことに使えるじゃない』と堅実な女性には我慢できないかもしれない。男から見た時の、女性が稼いだ金をブランドもんのバッグとか洋服とか海外旅行とか趣味につぎ込むのを我慢してみているのと一緒だと思うなあ」
ついに両親が揃って絶句。なにも言わなくなった。
そして小鳥も『大人の男と女って、そういうことを考えて、付き合っているんだ』と目を回していた。
だけどそこで小鳥も気を取り直して考えてみる。
そうだ。翔兄のMR2は結構、お金をかけている。
エンジンのチューンはしかり、エアロパーツ諸々、足回りも、整備も。でもそれは車屋の男達は皆していることで……と、ここまで考えついて小鳥は思った。
そうかー。瞳子さんにとって、ここの連中はある意味『お金を使わす悪い連中』にもなっちゃうのかー、と。武ちゃん専務の見解が正しければの話だが。