ワイルドで行こう
それなら、最初から花梨ちゃんと付き合わなければ良かったじゃない。
小鳥はそう叫ぼうと思った。だけれど、それを悟ったように花梨ちゃんがさっと先に入り込んでくる。
「その女の子、別の人が好きなんだよね。竜太もそれを知って、諦めて……それで、仲良くなった私とね……。でも、やっぱりわかっちゃうんだよね。その子の前で無理しているっていうのが」
「その子の前? 誰、その女の子。この学校の子ってことだよね。同じ三年生?」
そして花梨ちゃんがやっと目を合わせてくれる。でも、その目が何故か小鳥を睨んでいる?
「そうだよ。同じ学校、三年生。その子ね、小学生の時からずうっと好きな人がいるの。ずっと年上の、もう働いている男の人。ずっとまっすぐその人のことだけ好きなの」
そこで小鳥の胸がズキッと痛んだ。
「よく知っているんだ。その子のこと。諦めるとかそんなんじゃないの。本当に好きだから、ずっとそのまま好きなの。たぶん、その人が他の女の人と結婚しちゃっても好きでいて、諦めるのに時間がかかりそう。その人が結婚でもしない限り、きっとその子はそのお兄さんのことが好きだと思うんだよね――と、竜太に教えたら、『そいつ、らしい』とガッカリして諦めたんだよ」
もう疑う余地がなかった。
「花梨ちゃん、それって……わた……し……?」
「……その子だから、平気でいられた。その子が竜太には絶対に振り向かないとわかっていたから。竜太がどんなに彼女を好きでも、竜太の想いはこれからもずっと叶わないだろうから、だから……大丈夫だって思っていた。でも、竜太も同じなんだよね。彼女と一緒で本当はまっすぐで、なかなか想いが消せないタイプ。だから彼女のことがわかりすぎて、それで気になってしようがないんじゃないかな……」
唇を噛みしめていた彼女の瞳から、大粒の涙がぼろぼろと落ちてきた。
ごめん、花梨ちゃん。そう言いたい。
でも何がごめんなのだろう? 何も知らなかった小鳥が安易にごめんというのも失礼すぎる気がする。でも、ただ彼女の涙を見ているのも辛い。
「あの、花梨ちゃん。抱きしめてもいい?」
背丈がある小鳥は、自分より小柄な彼女をそっと見つめた。そして彼女もちょっと驚いた顔。