ワイルドで行こう
「いつも小鳥ちゃんは、そうして傍にいてくれたね」
「私も同じだよ。花梨ちゃんにそうして傍にいてもらった。でも、今日は……、勝手に抱きしめちゃいけない気がする」
高校に入学して直ぐに仲良くなった彼女。クラスもずっと一緒で『絶対に縁があるね』と毎年騒いだ。でも、今日は。
「抱きしめないで。と言ったら……私、根性悪の女になるかな」
「ううん。それが花梨ちゃんの本当の気持ちなら、私、大丈夫」
「……だったら。暫く、私のこと。一人にしてくれる?」
『大丈夫』なんて大きく出たけれど、親友の彼女に『暫くそっとしておいて』と言われると、さすがに胸に突き刺すものがある。
だけれど。大好きな彼氏の気持ちを奪っていた相手に笑顔を見せろなんて、小鳥には言えない。
「わかった。花梨ちゃんのこと、待ってる」
小鳥がそういうと、花梨ちゃんは逃げるようにして教室を出て行ってしまった。
仕方がない。暫くはじっと待っているしかない。自分は何もしていないけれど、知らないうちに、花梨ちゃんを傷つけるようなこともしていたかもしれない。
廊下を見ると、竜太もこちらを見ていた。
そして小鳥はすぐに目を逸らしてしまう。
知らなかった。竜太が、自分のことを好きに想ってくれていただなんて。知らなかった。
だからこそ、小鳥はやっと知る。
彼が小鳥の目の前でお弁当を渡す花梨ちゃんに不機嫌だったことも。花梨ちゃんをかばって喧嘩腰になった小鳥に対して、彼が必要以上に感情的になっていたのも。
『男は素直になれない生き物』
あの反省文も。――『素直になれないのは、自分の女にじゃなくて』。何を言っているのか分からなかったあの言葉も。
すべて、小鳥に繋がっていたなんて。
自分一人だけ、たった一人でも楽しそうにしてるだけのことが、罪になっていることも、傷つけてしまっていることもある。
それを小鳥は噛みしめた。
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