ワイルドで行こう
.リトルバード・アクセス《7c》
そう、聖児には密かにばれていること判っていた。
幼い頃から傍にいたその人を、姉が憧れていることぐらい。毎日いる姉弟だから知ってしまっている。
だけれど。それは聖児だけじゃない。特に琴子母には遠回しに何度もはち切れそうな想いを口にして聞いてもらっていた。
それでも『誰も』。小鳥本人には明確にはしなかった。
『小鳥ちゃん、桧垣君のことが好きなのね』なんて母は言わない。
弟も『姉ちゃん、翔兄のことが好きだろ』と小さな頃は何度か言われたが、今はからかいもしなくなった。
他にも武ちゃん専務も矢野じいも。きっと雅彦おじさんも。みんな知っているのだと思う。でも知らない振りをしてくれている。
英児父だけが良く判らない反応をしていた。
さっきのように。でも、『翔がついにプロポーズに行くんだってよ』と明るく笑い飛ばして娘に言わなかったということは、英児父も気がついている?
「でもよ。どうも慌ててプロポーズに行くことになったみたいなんだよ。父ちゃんも仕事中に慌てて許可したみたいだな。スーツに着替える前に、翔兄、MR2をピカピカに磨いていたからさ。本気モードなんじゃね」
「慌てて? どうして」
「さあ。なんだろう。俺達子供には関係ないと思って教えてくれないからな」
じゃあな行ってくると、聖児が逃げるように出かけていく。
だけど……。小鳥はもう……。
すぐに部屋に駆けこんだ。鞄を放ると、着替えもせず、小鳥はベッドに倒れ込む。