ワイルドで行こう



 一人でもいないと、飯が美味くねえ。英児父らしいな……と、小鳥は枕を抱えて、やっと少しだけ笑っていた。

 父は寂しがり屋で、だから琴子母を手放さない。そして子供達も俺の大事な一部――とも言ってくれる。我が家は三姉弟が騒ぐと父ちゃんが『うるさい!』と鎮めようとする、その後すぐにお母さんが『うるさいのは幸せな証拠』と言うのがお決まりになっている。

『そうだな。琴子と一緒になる前は、この家はもの凄く静かだった。そこの小さな山の夜鳥の声が聞こえるほど。そう言えば、いつのまにか聞かなくなったな』

 たった一人で龍星轟を建て、たった一人で暮らしていたという。今は改築して部屋数も増えたから、リビングしか面影はなくなったらしいが、恋人時代ここに通っていた琴子母も『それでも広く感じたわね』と話していたことがある。

 両親の結婚は遅かった方らしい。父は三十六歳、母は三十二歳。出会って一年もしないうちに婚約をして結婚。電撃だったと聞いている。それだけ、『出会ってすぐ、結婚を考えられた相手』ということらしい。

 それまで母は雅彦おじさんとか他の恋人もいたのだろう。父も三十六歳で琴子母と出会うまで何もなかったなんてことはないだろう。それまで付き合ってきた恋人とはどうにもならなかったのに、母とは出会って直ぐに結婚できた。そういう相手はすんなり行くもの。

 結婚って。そういうものなのかもしれない。

 星を見つめたまま枕を抱えた小鳥の心が静かになってくる。

 ――じゃあ。翔兄と瞳子さんは。もしかして? すぐには結婚できなかった、運命? 

 いや。と、首を振る。

 そんなことになったら。あそこまで頑張っているお兄ちゃんには、哀しい結果になる。そんなこと考えちゃいけない。

 小鳥は懸命に首を振る。
 でもやっぱりダメ……。哀しいよ。苦しいよ。
 涙が滲む。でも泣き疲れた。




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