ワイルドで行こう
.リトルバード・アクセス《8a》
「小鳥ちゃん、これをお父さんと桧垣君に持っていってあげて」
そろそろ日付が変わる。
父の胸になりふり構わず飛び込んで泣いていたら、後を追ってきた琴子母にも抱きしめられて、二階自宅に連れ戻された。
泣いている小鳥を、母はそっとしてくれていた。涙も止まって、リビングのソファーでぼんやりしていたら、キッチンにいた母が珈琲を淹れ始め、それが出来上がったところ。
母が差し出したトレイに、父がいつも使っているマグカップと、予備のマグカップ。それを『わかった』と受け取った。
母が持っていけばいいのに、どうしてかな。と思いながら、小鳥は玄関を出て一階事務室への階段を行く。
だけど。わっと飛び出していた気持ちが落ち着いても、やっぱり小鳥は一階の男二人がどうなっているのか気になってしまう。そんな小鳥の気持ちを、母は解っていて? それで一階に行くキッカケを作ってくれた?
「お父さん」
父ちゃんじゃなくて『お父さん』。ちょっとよそ行きみたいな呼び方だが、時々、かしこまって言う時もある。
だから、自動車雑誌を眺めていた父がびっくりした顔で振り向いた。
「おう、なんだよ。落ち着いたのかよ」
「うん。これ……お母さんが持って行きなさいって」
トレイの珈琲カップを英児父の社長デスクに置く。
「サンキュ」
さすが琴子、気が利くなといういつもの嬉しそうな笑みを見せ、そして英児父は小鳥も見た。
「翔を止めたかったんだな。わかる。あいつ、今にもぶっ飛ばしてどこかに行ってしまいそうな顔をしていたもんな」
小鳥もこっくり、素直に頷いた。