ワイルドで行こう
ううん。やっぱり……変わらないと思う?
翔兄は翔兄、むしろ、従業員として整えていないそんな翔兄を知りたい。小鳥はふとそう思った。
「父ちゃん」
父を起こして、小鳥も自宅に戻ろうとした時だった。ガレージから『ブウン、ブウン!』と激しくエンジンをふかす音が響いた。
その荒っぽさ……!
どうしたのか、小鳥の中にある血が騒ぎ出した。とてつもない『不安』が的中したかもしれない! そんな危機感を煽るエンジン音!
「終わったか、翔の……」
父もエンジン音で目を覚ましたが、小鳥はもうその時には駆けだして事務所を飛び出していた。
「小鳥――!」
父の声に構わず事務所を飛び出した時、ガレージから青いMR2もバックで飛び出してきたところ。
運転席にいる翔を見て、小鳥はますます確信してMR2に駆けていく。彼がシートベルトをしている! やっぱり不安は的中した!
物わかりの良い優等生の顔をして、やっぱり、父の言い付けを破って、新しいタイヤを履かせて走りに行ってしまう――!
――シルビアを、あんなに欲しくて手に入れた車だったのに。感情的に暴走して廃車にした。
男の失恋、若い時のコントロールできない気持ち。どんなにそれがいけないことでも、やってしまう。知らなかった若き日の父の姿は、いま、運転席にいる翔と重なる。
ピットからバックをして出てきたMR2のハンドルを切って、車を龍星轟から出て行く方向へ変えようとしている。
彼の目がやっぱり燃えている。さっきこの家にやってきた時のように、まだ彼の目は怒りに溢れている。悔しさを食いしばる彼が力強く回そうとしているハンドル。アクセルを踏んだら、もう一気に飛び出して行ってしまいそう!
必死になっていた小鳥はMR2の前に飛び出していた。
エンジンの熱気をまとって発車寸前のMR2の真っ正面で、小鳥は両手を開いて立っていた。
「待って! 翔兄ちゃん――!」
運転席の彼が『あ』と驚いた顔、出て行く方向を定め、もう動き出そうとしていた車の前に飛び出してきた人間。
それは『飛び出し事故』も彷彿とさせるほどの光景だったはず。