ワイルドで行こう
『キッ』と翔がブレーキを踏んだ。
両手を広げる小鳥の膝元すれすれに、青いバンパーが停まっていた。
怖くなんかなかった。お兄ちゃんがこのまま出て行ってしまう方が怖い。
なんとか車が停車して、ほっとした小鳥が思ったのはそんなことだった。
「おまえら、なにしとんじゃーっ!」
カッとなった父の怒声が龍星轟に響き渡る。
英児父が事務所から飛び出してきた。言い付けを破ろうとしている部下、そして後先考えずに飛び出した娘が『轢かれそうになる』寸前……! 相当、頭に血が上っている。そんな顔でこちらにやってくる。
それをバックミラーで確かめたのか、運転席の翔が急ぐためか、『そこをどけ』と小鳥に向かって威圧的に声を発しているのが目で見てわかる。でも小鳥は首を振る。
前進を阻まれている彼に睨まれ、またMR2のエンジン音が激しくブウンと唸った。彼がエンジンをふかして、小鳥を威嚇している。でも小鳥は再度首を振る。
ついに翔が運転席窓から身を乗り出して叫んだ。
「そこをどけ!」
初めて大好きなお兄ちゃんに怖い顔で怒鳴られる。でも小鳥は何度も首を振る。
そんなに、走りたいの。それで気が済むの?
お兄ちゃんの今の気持ちってそれしかないの。それだけなの!?
小鳥の心が叫んでいる。