ワイルドで行こう
『オメエ、いま、どこにいるんだ』
思った以上に静かな声だったので、小鳥はなんとか一息つくことができた。
「三崎町の岬」
『はあ!? そっちに行ったのか。どーりでダム湖方面にはいねえはずだわ』
「え、父ちゃんは、いまどこにいるの」
『いま、今治。テメエら、ひっつかまえてやろうと思って、スカイラインで追っかけていったんだけどよ。あてが外れたわ』
父は東部方面、いつも龍星轟の走り屋仲間が集まるダム湖から、しまなみ海道まで行ったらしい。確かに翔兄は、海道の大橋と橋を渡り継ぐコースもお気に入りだった。
そして父も……。心配して、車で追いかけてきてくれていたんだと思うと、本当に申し訳なくなってきた。
「ごめんなさい。お父さん」
涙が出てきた。後先考えない行動ばかりするやんちゃ娘がすることに、こんなに気を揉んで……。振り回されて……。でも、絶対に捨て置かないで、どんな時でも必死になって小鳥を手放さない、その手にちゃんと繋いでおこうと必死になってくれる。
そんな小鳥の反省の意が息だけでも伝わったのか、父の静かな溜め息も聞こえてきた。
『おまえらしくてよお。でもよ、おまえがあれだけ必死になってくれたからよ、翔を止められた気がする。おまえ、翔のことを信じていなきゃ、あんなことできねえぞ』
父の声が震えている気がした。怒りたくても怒れない、安心したけど、今の今までもの凄く心配していた。そんな感情の震えが小鳥にも伝わってきた。
『とにかく、帰ってこい。信じていたよ、父ちゃんも。お前が横にいれば、翔は馬鹿なことはしないって……。信じていた』
そして、父が今度は静かに言った。
『小鳥。翔のこと、頼んだぞ。俺にとっちゃ、従業員は家族も同然だからよ。お前に任せる』
「お父さん……」
従業員を思う気持ち、家族のように日々を過ごしてきたから、お前も、俺と同じ気持ちでやってくれたこと。
英児父はそう言って、小鳥に任せてくれた。それはもう子供にわざわざ頼んでいるというふうではなく、……それは、初めて、父に、一人の任せられる大人として信じてもらえた気にもなって、小鳥は驚いていた。