ワイルドで行こう



「そんな日、なかっただろ。だって、お前、すげえきちんとしているもんな」
「きちんと?」

 がさつでお騒がせな私のどこが? 

 小鳥が目を丸くしていると、竜太が少しだけ笑った。
 小鳥が好きだとか知られたとか、彼女と別れたせいで、親友である小鳥も巻き込みぎくしゃくしているとか。そういう諸事情を感じさせない屈託ない笑み。それを感じた小鳥は、直感的に安堵することができた。

「行動はがさつかもしれない。でも、自己管理はきめ細やか。髪はほどいたことがない、後れ毛を遊ばすとかしないで、きっちり束ねる。制服にシワはない。汚れもない。机もいつも綺麗にしているし、教室のどこかが汚れていると率先して掃除しているのはお前だし。そんなお前が傍を通り過ぎると、シャンプーなのか、洗剤なのかわからないけど、いつも清々しい匂いがする。ハンカチも小物も見かけに寄らず乙女チックだし、なにか忘れ物をして困っているところなどと見たこともない。むしろ困っている同性をしっかりサポートする姉御肌。そのうえ、字が綺麗。お前はしらないかもしれないけど。俺達、男子の間では、いちばん清潔感があって女らしいのは実は滝田っていうのは、ずいぶん前からわかってんの、感じてんの」

 はあ? 目が点になった。男子からはいつも『男ぽい』とからかわられてきたし、『なんだよ』『なによ』と直ぐに喧嘩腰になるのも小鳥が女子の中ではいちばんだった。

「男気みたいなところがあるから、余計にお前に、男達は言いやすいんだよ。お前なら、メソメソしないで、頭の回転早く的確に言い返してくるからさ」
「な、なに言ってるの。ていうか。なんでここに来たの」

 ワザと二人きりになるように来たとしか思えなかった。
 そうしたら、竜太が目を逸らした。今度は口ごもって、なにやら言いにくそう。一度安堵したはずの小鳥は、今度は緊張する。

 まさかまさか。き、聞きたくない。『お前のこと、好きだった』とか、いきなりここで言われても。
 そりゃ、返答はひとつしかないのに。今は嫌だ。もっと違うゆったりした……。ゆったりっていつ?? 
 一人密かに困惑している小鳥のことなど知る由もない竜太がやっと口を開く。

「土居が……。今日、お前がそんな女らしく髪を下ろしてきたから。告白するとか言いだして……」

 ええ!? 思わぬことが、竜太から知らされ、小鳥はますますたじろぎ後ずさった。




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