ワイルドで行こう
背中を向けたままの、問い。だけど小鳥は竜太の顔を思い浮かべ、背中に向けてまっすぐに告げる。
「……いまは、ないかな。でも、前よりずっと好きになってしまったから。私も当分、その人をずっと追っていくと思う」
「大人、なんだろ。何歳」
「……二十八」
「父ちゃんの会社の人間?」
「うん」
「元ヤン?」
その問いにはちょっと、小鳥は眉をひそめたが。
「ううん。地元の国立大を出た人だけど。親父さんに憧れて、うちに来ちゃったんだって」
「へえ」
背を向けたまま、竜太はそこでずっと立ち止まって歩き出そうとしなかった。
まだ何かを聞き足りないのか。小鳥は次の問を待ってみた。
「そいつも。車が好きなんだ」
昨夜、得たばかりの答を、小鳥ははっきり伝える。これは胸を張って。
「うん。父ちゃんと同じ、生粋の車バカ」
やっと、竜太が肩越しに振り返った。
「国大出たのに、車屋に就職して、なおかつ車バカか。敵わねえな」
致し方ない笑みを見せられる。
「土居が急に決心するほど。今日のお前、すげえ女っぽい顔しているもんな。なんかあった?」
す、鋭いなあと思いつつも。自分のことを気にかけてくれる男子は、そんな小鳥の変化も直ぐに判ってくれるんだという感動があった。
だけどなにがあったかとありのままを伝えることは、やはり心苦しい。けど……。
「あった。私と彼が、じゃなくて。彼に。私、昨夜の彼を見て、ますます好きになって困ってる」
気恥ずかしくて、たれる黒髪の中、頬が隠れるくらいにうつむいてしまった。
「もしかすると。お前の方が、よっぽど『恋愛』をして、女らしくなっているのかもな」
どんな顔だと思われたのだろう。でも、竜太がその時……やはり唇を噛みしめていた。
「だけど。まっすぐで迷いがなくて、ほんと、俺らの滝田らしくって。それはそれでいいなって思う。きっと土居も」
そして彼が最後に小さく呟いた。また背を向けたまま。
「がんばれよ。じゃあな」
「あ、ありがとう」
彼氏ができるだけが、恋愛じゃない。ずっとその人だけの片思い。それを貫いている間も『恋愛』。
そうだね。ありがとう。私は私のまま続けていくよ。
でも。心の中で一度だけ小鳥は呟く。『ごめんね』と。
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