ワイルドで行こう
.リトルバード・アクセス《9b》
竜太と二人きりで外に出ていたことを、敏感に察知していたのは、やはり花梨ちゃんだった。小鳥と目が合うと、露骨に避けられ、彼女は他の女の子の輪に入ってしまう。
こんなこと、初めてだったけれど。女心、しようがないかと小鳥も割り切った。
この日も釈然としない思いを抱いたまま、小鳥は帰路につく。
バス停まで行こうとすると、校門を出るところで、眼鏡の女の子と目があった。
「あ」
「あ、滝田先輩」
小鳥が怪我をさせた二年生の彼女だった。今日も眼鏡をかけて、艶々した黒髪はすとんと肩でまっすぐで、綺麗にまとめたポンパドール。清潔感溢れるというなら、彼女のような子だと小鳥は思う。
そんな彼女は自転車通学、まだその手に包帯を巻いていたので、小鳥の胸がまた痛む。
だけど彼女の方から笑って、小鳥の元まで自転車を押して駆けてきた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは。具合、どう?」
恐る恐る聞いたが、小鳥の傍まで来た彼女はにっこり。
「ほんとにかすり傷程度だったのに。いろいろ聞きました。そちらのお父さんがいらした時、職員室でもいろいろあったと」
「あー、あれね。ごめんね。うちの親父さん。昔からああなの。で、私も、親父さんにそっくりで、迷惑をかけちゃうこと多くて」
げんなりと呟いたが、眼鏡の彼女がくすくすと笑った。
「でも。かっこいいお父さんですね。それに学校までかけつけてくれるお父さんてなかなかいないと思います」
「ううん。だって。あれって私を心配したんじゃなくて、私がしたことに腹が立って乗り込んできたんだよ」
「それが瞬時にできるお父さんはなかなかいない――。私の父がそう言っていました」
え、そちらの。お嬢様な貴女の、お父様が?
小鳥も自宅まで謝罪に出向いたが、彼女の家は如何にもエリート社員の持ち家といった風で、ガレージにはBMWとワーゲンのポロが駐車してあった。つまりお金持ち。
そしてお母様は上品な奥様で、小鳥はまだお父様には会っていないが英児父が言うには『あれは、お育ちの良いエリートだぜ』といった感じらしい。彼女を見てもお育ちがよいお嬢様。
彼女が『パパ』と言えば、とっても似合っていて、そしてお父様もきっとその通りにパパと呼ぶに相応しい穏和な人なのだろう。
「その父が、滝田さんのお父さんが乗ってきた日産の車を見て、とても興奮していました。やっぱり男同士なんですね。車のことも庭先で長く話し合っているから、最後には母が呆れて笑っていましたし」
そうだったんだ? と、父から聞かされていない男親同士の一コマがあったようだが、小鳥には『良くあること』として直ぐに目に浮かんでしまった。