ワイルドで行こう
「滝田先輩のように誰もが知っている先輩と、こうしてお話ができるチャンスが巡ってきて」
「えっ! 私なんて、ただ考えが浅いばかりで、騒動ばっかりで……。落ち着きなくって」
「だって。滝田先輩と、いつも一緒にいる綺麗な村上先輩、そしてカッコイイ高橋先輩って、下級生の私たちから見たら、すごく目立つ注目されている先輩なんですよ。その先輩とお話しできたり、保健室まで運んでもらったり。その夜、眠れなかったんです……」
小鳥は言葉を失う。小鳥にとっては『毎度毎度の不祥事』で、ある意味汚点の連続だと思っていた。なのに、平穏無事に過ごしている彼女からすれば、それはとてもドキドキする非日常なのだと言われて――。
「私は。野田さんのように、きちんと毎日を丁寧に過ごしている人の方がすごいと思うよ」
今度は彼女が黙り込んでうつむいた。
「そうですか? 毎日同じ事の繰り返しだったし。本当はピアノだって上を見ればきりがなくて飽き飽きしていたんです。なのに、先輩と滝田さんのお父さんが『大事な手にごめんなさい』と、とっても気にしてくれて……。大事にしてくれて……。少し考え直しました」
ピアノなんてもう……嫌。そう思っていたところだったと知って、小鳥は驚いたのだが。彼女は包帯がある手をさすってもう笑っている。
「弾けなくなるかもしれなかったと思ったら……。やっぱり嫌でした。これからも大事にします」
逆に頭を下げられてしまい、小鳥は『とんでもない』と恐縮してしまった。
すると眼鏡の彼女が頭を下げたまま、小鳥の鞄をじっと見ている。
「これ……。もしかして、手作りですか」
鞄につけている自作の『七色うさぎ』。それを彼女が手にとってしげしげと見つめている。
「う、うん。そう」
「え、先輩が……ですか?」
再度小鳥は、小さく『そう』と頷いた。そうしたら彼女が頭を上げて、小鳥に飛びついてきた。
「先輩っ。お願いです!」
え。急になになに? 戸惑う小鳥にさらに彼女が意気込んで言い放つ。
「私、手芸部なんです。部員がいなくて困っているんですけど。先輩、形だけでもいいから入ってくれませんか!」
うわ。急に積極的な彼女になって後ずさったが、眼鏡の奥の瞳が真剣そのものだった。