ワイルドで行こう
「お邪魔いたしました」
帰り際、事務所の英児父にも丁寧に挨拶をしてスミレが帰ろうとしていた。
英児父が、自転車を置いている学校まで『俺の車で送ってあげるよ』と言ってくれ、またスミレが『嬉しい、お父さんの車に乗ってみたい』と嬉しそうにはしゃいでくれる。
車を出しに行ってくると父が外に出て行き、小鳥とスミレは事務所内で待っていることに。
「先輩。本当に楽しかったです。私、祖母は遠いところに住んでいるし、毎日が父と母だけの家だから」
スミレは兄弟がいないひとりっ子とのことで、そんなところも母と育ちが似ているのかもしれないと改めて思った。
「お洒落なおばあちゃまに、かっこいいお父さんに、家族みたいな従業員さんたち。ほんとに賑やかですね、ここは」
「いつでもおいでよ。うちは人の出入り多いから、突然来たってぜんぜん平気、構わないよ。気負いせずに来て」
「ありがとうございます。じゃあ、その、連絡先……教えてください」
「いいよ」
そんなスミレと、ついに携帯電話のアドレスと電番のデーター送信交換まで済ませた。
そこでスミレが携帯電話を鞄にしまおうとしていたのだが、少し顔色が変わった。
「どうしたの」
「あの、ペンケースがなくて……」
レエス編みの図案をメモした時に彼女が鞄からペンケースを出していたのを小鳥は思い出す。
「祖母ちゃんのところだね。取りに行ってくる」
「私も一緒に行きます」
白いGTRが事務所の店先にやってきたが、武ちゃんに『取りに行ってくる』と言付け、スミレと一緒に再度鈴子祖母宅へ行こうと事務所奥の自宅へ向かうドアを開けようとしたのだが、どうしたことか勝手に開いた。
ドアを開けようとした小鳥の目の前に、自分より少し背丈がある茶髪の弟が制服姿でそこに立っていた。