ワイルドで行こう



 岬から帰ってきた朝方。龍星轟で寝ずに待っていた英児父と琴子母が事務所で待ちかまえていた。

 帰ってきた翔が『申し訳ありませんでした。覚悟は出来ています』と頭を下げ、上司である父に謝罪した。だが父の怒りの形相は相当なもので、ただならぬ気迫を放っていた。

 母もハラハラした様子で英児父の背中で見守っていたが、それは小鳥も一緒で。『父ちゃん、クビにしないで!』そう言おうとしたら、その前に英児父が翔の胸ぐらを掴んで拳一発、鉄拳で翔を吹っ飛ばした。

 本当に事務所の床に翔が飛んでいったので、さすがの小鳥も悲鳴を上げてぶっ飛ばされた彼のところに駆けていったほど。しかし、そんな小鳥も首根っこを掴まれ、平手打ち一発、頬を張り飛ばされた。

『翔は五日間の謹慎、小鳥は小遣い一ヶ月なし。わかったか!』

 殴られて項垂れる翔と小鳥だったが、そこでは二人揃って素直に頷いていた。

『今夜のことはこれでもう終いだ。これで済ませるから、今後、うじうじごちゃごちゃを龍星轟に持ち込むんじゃねえぞ。次は許さねえから覚えておけ!』

 今まで実直に勤めてきてくれた翔だからこそ、英児父も謹慎で済ませたことが二人揃って通じた。

 翔がMR2で帰ってしまった後、それでも小鳥は部屋で泣きさざめいた。彼が叱られたとか、父親に頬を叩かれたとかそんなことのショックじゃない。一晩で起きた様々なことがその時になって一気に襲ってきて受けきれず、この時なって溢れ出てしまったのだ。

 案じた琴子母がもう明るく日が射し始めた部屋にやってきた。
 『大丈夫』と昔のまま優しく抱きしめてくれた琴子母が小鳥の頭を撫でながら静かに教えてくれる。

『お父さんも泣いていたわよ。俺だって殴りたくねえよって。お父さんも落ち込んでいるのよ』

 時に『悪者にだってなれる、恨まれ役も出来る』。それが上司で親だってことを、小鳥は知った気がした。

『わかってる。父ちゃんのこと、悪く思ってない。翔兄もきっと……』

 でも小鳥は少しだけ案じている。

『お兄ちゃん。龍星轟に帰ってくるよね?』

 少し間をおかれたのが気になったが、琴子母は『大丈夫。ここが好きだから彼は帰ってくるわよ』と言ってくれた。ただそれだけで小鳥は泣きやむことが出来た。
 

 ――謹慎五日。それが終わった。今日、彼は出てくるはずなのにいない。





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