ワイルドで行こう
小鳥の中で渦巻く不安。真面目な翔兄がまた一人で『俺は情けない男だ』と自分を責めていないか案じていた。
だけど。英児父も上司としてじっと待っている姿を小鳥も見ている。殴ったことが吉と出るか凶と出るか。じっと堪えて無言で待っている父が、取り外された古いMR2のタイヤを触っていた姿があったから。
だから、小鳥もじっと待っている。また龍星轟が俺の生き甲斐と言って、再生していく彼の姿を思い描いて――。
「小鳥」
夏の朝の道。呼ばれて振り返ると、いつもの龍星轟ジャケット姿の翔が立っていた。
「お兄ちゃん……」
彼が笑って手を振ってくれた。それだけで、小鳥は泣きそうになったが堪えた。
「ただいま。迷惑かけたな」
小鳥は静かに首を振る。どこか気まずそうな彼を見て、小鳥から歩み寄る。
いつにない感情を爆発させ、上司の言い付けを破って、しかも上司の未成年である娘を助手席に乗せたまま連れ去ってしまった彼。
そんな彼の顔を見上げると、口元に痣……。そこへ小鳥はそっと指先を伸ばした。
「五日経っても消えなかったんだ」
彼の唇の端に、小鳥の指先が触れる。また彼が少し固まった。だから……小鳥は静かに指をそこから離そうと。
だけどそこで離れそうになった小鳥の手を、翔からぎゅっと握ってきた。